プロローグ

7.プロローグ






 リリーナはブリュッセル大統領府大統領執務室にいた。窓の外を見上げる。
 空を思うことは地球では故人への思慕に通じる。
 だけど自分は少し別で。
 空を宇宙(そら)として感じて、彼を思う。
「・・・・ヒイロ。」
 もう狙撃される心配は無かった。彼がこうしていないのだから。
 ヒイロはジブラルタルに残り、少年達が根城にした空母の爆破に携わった。それはプリベンターの仕事で、その時点でボディガードの任を外れた。
 今はどこにいるのだろう。地球にいるのか。それとも宇宙にもう戻ったのか。
 リリーナは窓から離れ、デスクに座る。
 机の上に乗せておいた茶色いテディ・ベアに手を伸ばして撫でた。
 どこでもいい。彼にはやらなければならないことがたくさんある。
 ボディーガードとして彼が傍にいるより、志を同じくしている方がずっと彼が近くにあった。
 室内は暖かすぎてスーツの濃紺のジャケットを脱ぐ。白シャツにジャケットと揃えのワンピースタイトスカートを合わせていたが、それで十分に過ごせた。
「失礼いたします。」
 リリーナは顔を上げた。レディ・アンだ
 今日の予定はプリベンダートップの彼女との話で終わる。19時。
 明後日が、信任投票。明日は朝の7時から行動開始して、39時間のタイムテーブルを組んでいる。
 柔らかな笑みを乗せてレディ・アンがこちらまで入ってくる。
「あなたのおかげでこちらはだいぶ動きやすくなりました。派手に喧伝されたものですね。お父上が聞いたらお嘆きになられるかもしれませんよ。」
「私は一蓮托生ですから。」
 リリーナは首を傾いで微苦笑する。
「存在どころか、事実を知っている以上、私もプリベンターみたいなものだとヒイロに言われました。」
 だからつきあえと言われた。
「夏のL1での休暇中にどさくさあなたを細月グループの検挙に巻き込んだ理由ですか?。」
 事件につきあえばヒイロと傍にいられる時間が増えるのもまた現実だった。
 それに実際戦闘に巻き込まれはしたが一時的で、ほとんどは買い物をしたりヒルデのボランティアの手伝いをしたり、相当自由度が高かった。
「はい。」
「ほう。」
 レディ・アンは態度と口調を改めることにした。
 リリーナを守ることを声高に息巻く者もいる。
 だが恋人であるらしい彼はいとわない。
 その分、対等なのだろう。
「ヒイロは今どこにいるか知っていますか?。」
 プリベンダーのトップにそれを尋ねる。
 ヒイロはレディ・アンとも対等でもあった。
「宇宙に一度帰ると言っていた。が、今は戻ってきているんじゃないか?。奴は軍港の宇宙港化のコロニー側技術支援に携わる予定だ。大統領不在が続いて経済が停まっていたが、そろそろ各地であなたの大統領就任を見越しての動きが活発化している。宇宙空港化される軍港もいくつか決まった。」
 リリーナが目を瞬かせた。初耳だったらしい。
「出向き先が選ばれて、当座の住居でも探していると思うぞ。」
 レディ・アンは肩を竦めた。
 用件があったのでその書類として紙を3枚。それからデータディスクをリリーナに手渡す。
 リリーナも了解していて、ディスクを端末に差込み、紙面に目を通す。
 レディ・アンはデスクに視線を落とす。この場には少々不似合いだ。
「・・・このクマについて昨日マスコミに送り主を尋ねられていたな。あの返事はマスコミには効果的だ。」
「・・。」
 リリーナは無いと淋しくなるからと言ったのだ。
「お父上の形見か?。」
「・・・。」
 リリーナは手作業を止めてスーツの内ポケットから手帳のようなものを取り出した。
 そのページを反対側に折り曲げてレディ・アンに見せる。
 レディ・アンはあきれて目を半眼にする。
 手帳ではなくてフォトケース。
 右側に家族の写真。左側にヒイロ・ユイ。
 ヒイロ・ユイの方だけが見えるように山折りしてレディ・アンに掲げる。
「・・・・楽しんでるな。」
「もちろんです。自慢できる方が少ないんですもの。」
「その写真も、もらったのか?。」
「ええ。この間のL1の休暇の時に。」
「・・・。」
 レディ・アンは腕組みをしてデスクに寄りかかる。
「・・・・ではついでに聞くが、いつからそうなったんだ?。」
 そういうものを贈り贈られる関係だ。
 聞いてもらいたいようだから尋ねる。
「戦後からですよ。」
「出会ったのは?。」
「オペーレーションメテオの日です。海岸で倒れてたところに私が遭遇したのです」
「01か。ゼクスがその機体、撃墜した。その余波だな。」
「・・・・兄が?。」
「そう。なにか気障りで」
「ええ。とても。」
「おまえのような妹を持つ兄の方に同情する。」
 ことあるごとに恋人の肩を持つからだ。
 戦中然り、戦後然り。
「出来の悪い妹ですから。」
 レディ・アンは本当に事情に詳しい。話せば辻褄が合っていく。
「・・。聖ガブリエル学園の攻撃は私が指示した。私はドーリアンを殺したことを知っているあなたを生かしておくわけにはいかなかった。」
「・・・。」
 レディ・アンもヒイロと同じようなことを言う。それはレディ・アンがヒイロと同じ単独行動の破壊工作員だったからなのだろう。
「彼はあなたを守っていたが、私はそのパイロットとあなたとの関係を訝った。」
「・・・・どうしようもない関係ですよ」
「?。」
「あなたと同じです。少年兵としての顔を海岸で見た私を、殺すために彼は学園に来たのです。」
「守っているように見えたが?。」
「・・・。」
 楯で庇った。
 そのあと振り向きざまその楯でレディ・アンの部下を容赦なく楯で貫いた。
「彼も驚いていたようですよ。そのあと詰問して逃げましたから。」
 再び振り下ろされてきた楯は私にはかすりもせず、ヒイロの動揺を意味していた。
「・・・・詰問するな。」
 一兵士として更に同情する。
 そしてやおら真面目な顔になる。
「去年のここでの戦闘でヒイロ・ユイは、あなたがいるのにここを撃った。それは当初彼があなたを殺す側にいたからか。」
「ええ。だから私は彼の人質にはなりません。今更でしょう?。人を殺すと言っておいて。」
 ふふっと笑った。
 殺す側だったが、守る側に立っているレディ・アンには、ある種の脅迫に聞こえる。
 恋人ならば威嚇だろう。
 リリーナ・ドーリアンが殺されたとして、守れなかったと気に病むなら、それをおこがましいと言うのだ。
「酷だぞ。」
「ごめんなさい。でも本心です。」
 レディ・アンにも同じことを言いたいのだ。
 暗殺未遂事件以後、大統領の死について語られる。コロニー指導者ヒイロ・ユイの死についてもだいぶ語られてしまった。
 だから私の死について苦悩する必要はないと、プリベンダーのトップに言っておきたいのだ。
「・・・・。」
 言われて酷だと思っても、それは人心を求心させるだけだ。
 私ですらそうなのだから、恋人である彼はそれ以上だろう。
 リリーナは書類に戻った。
 怪訝そうにする。
「・・・・。」
「何か不明な点でも?。」
「いえ、予想していた概算要求より、半分くらいだったものですから。」
「技術員が優秀で助かると言うところかな。最新の技術を見つけて要領よくこなしてくれるから人件費も資材費もかからなくなっている。」
「そうですか。」
「あなたが私達の活動を公にした効果でもある。隠蔽工作に無駄な資金を投入しなくていい。この予算繰りはその対価だ。」
「わかりました。」
 サインとコメントを付して行く。
「縮小・解体とまで言及するとは思わなかった。前々大統領も前大統領も必要としか言わなかったからな。」
「計画は大事です。」
「ああ。最終的にはプリベンダーには、私ひとり残ればいい。」
「・・・。」
 連合と一人で戦っていたと言った。
 彼女はまた一人で戦うつもりなのだ。
 それは荷が勝ちすぎない。
 ただ、そこから救ってくれる人は、もう、いない。
 優しさと温もりを与えてくれる者はいると思う。だが、志に添い、遂げる相手がいない。
「・・レディ・アン。」
 ヒイロ・ユイに呼ばれた。いつの間にか執務室の戸口に凭れていた。
 手にはワインとそのグラス。
 目をしばたたかせるも、だがその後に温い会話は始まりもしなかった。。
 弱みをまさかと思ってはならない。それは先日ヒイロに会って思ったことだった。
 呼ばれたあとの無警戒さが、まさにそうだった。
「コロニーを楯にしたおまえを俺は忘れない。」
 唐突だった。目を見張るも背を向けていた。
「・・・ああ。」
 そして01のパイロットを自爆させた。
 彼である。
「だがそのおまえをトレーズは切らなかった。」
 ホワイトファングに包囲され、OZ宇宙軍がコロニーを楯に取った時、トレーズは彼らを切った。
「・・・ヒイロ。生き残っている時点で私はトレーズ様から切られているのだよ。」
 仄かに微笑する。
「追えるものなら追っている。」
 だがトレーズの背中がそれを認めない。
 肩越しに見やれば、ヒイロがこちらに向かってくる。ワインとグラスを三つ。デスクに置いた。リリーナが持つ書類をつまみ上げる。
「ヒイロ?。」
 リリーナが首を傾げる。
「奴は俺に共に死ぬことを望んだ。おまえのそれは勘違いだ。」
「・・聞いてて羨ましいぞ、ヒイロ。」
 レディ・アンは微笑した。
「ならば嬉しいな。」
 トレーズは後を追っても受け入れてくれるだろう、とヒイロは言うのだ。
 だが男と女では望まれることが違う。
 ヒイロはリリーナの書類をレディ・アンに差し戻した。
 そして、手持ちのナイフでコルク栓を器用に抜いた。
 ナイフ一本で何でも出来る。三つのグラスに注いだ。
 そう言えば11月第三木曜日だ。赤が注がれるところが白だった。
「同じであってはならない。」
 ヒイロの口元が動く。
「トレーズ様が言ったのか?。」
「ああ。」
「そうか。・・・・ならば私のしていることは正しいのかな。」
 戦う精神だけを尊び、皇帝にならなかった人と、間違いなく同じ道ではない。

 窘めてくれた声は遠い。

「さあな。俺はトレーズのいうことを理解出来なかった。」
 レディ・アンは感心したように呟いた。
「おまえは本当にトレーズ様に会ったことがあるんだな。」
 こうして言葉に出来るのはそのせいだろう。
「・・・。」
 対等に話した者は少ない。
 その時、そっとグラスに手が伸びる。
 リリーナがこくんと注がれた半分を一口に飲んでしまう。
「・・・・・リリーナ。」
「グラスが三つあるってことは飲んでもいいのでしょう?。」
「・・・・。」
「だってせっかくヒイロが注いでくれたんですもの。」
「・・・・・未成年だろう。この部屋でそうじゃないのは誰だ?。」
 レディ・アンとジョーとセツ。
「・・・・・・・意地悪。」
「誘われて飲むな。わかったな。」
 じゃあここで入れないでよと思うが、意地悪なのはわかっているので素直に頷く。
「はーい。」
「アルコールテストは問題ないそうだが?。」
「体調の問題じゃない。」
 呟いてそれ以上は言わない。
 レディ・アンは肩を竦めた。グラスをもらう。
「これはおまえの好みか?。」
「赤は散々飲んでるだろう?。それだけだ。」
「確かにな。」
 頷いて口に含む。先程リリーナが飲んだので毒など入っていないのは良くわかる。
 白特有の口当たりのいい、だがヌーボーらしい清冽で若々しいワインだった。
「・・・・うむ。新しい時代の到来に相応しいな。」
 なるほど、同じであってはならない。ワインなら赤が似合うだろう人が言った。
 コロニーを楯にしたことの恨み言かと思えば、気を使わせたかと思った。
 そして間違えば介入する。だから忘れないと言った。
 グラスを置いて、レディ・アンは書類を確かめると、認証ありがとうございますと言った。
「では、失礼。」
 レディ・アンは歩き出し、執務室のドアを開けた。










 ヒイロは私服だ。デニムボトムと白シャツにシアンのセーター。ここに来るにはだいぶラフだ。
 何しに来たのだろうとは思うが、その格好からただ会いに来てくれたという感があった。
 ヒイロは無造作に口の付けられていないグラスを取り上げ隣の部屋に行く。
 もう一つグラスをカウンターから取り出して注ぐ。
 セツとジョーの分だ。
 そのままワインの瓶とグラスはカウンターに置かれた。
「・・・・。」
 デスクの・・半分残ったそれはどうしようか。置いたままだ。
 リリーナはデスク上を片付けて立ち上がる。
 ヒイロが訝るようにこちらを見て目を半眼にした。
 優雅にグラスを手に取って、こちらに来るからだ。
 ヒイロに手渡す。
 飲むか飲まないかはヒイロの自由だ。
「空港作るの?。レディ・アンから聞いたわ。」
「ああ・・・。本決まりになったから地球に来た。」
「どこ?。」
「カイロ。アレキサンドリア。」
「・・・・・そう。」
 広大な軍事基地があったところだ。
 ヒイロはグラスを傾けて簡単に飲み干してしまい、カウンターに置いた。
 背を向けたので、リリーナはその背に近寄る。
「・・・・。」
 リリーナが背中をめくる。ズボンの中のシャツも引き抜く。
「・・・リリーナ。」
 ヒイロの訝る声色が更に険しくなる。
「銃なんか入っていないわよねと思って。」
「今更殺される気か?。」
 工作員の背後を探るなど正直言語道断である。
 条件反射と言うものがあるのだ。これはその部類だ。
「違いますよ。ボディーガードで来たわけじゃないと確認です。」
「・・・・。」
 思い切りあさっているには違いない。
「・・・・。」
 あらためて自分が条件反射で首に手を掛けなかったのが不思議だ。
 殺すなら銃なんか無くたって出来る。
 首を絞めればいい。
 心臓をえぐることだって出来る。
 指先は研がれたように冷えていた。そのままリリーナの頬に当てる。
 知らずに気持ちいいとその手に温かい手が重ねられた。
 そしてうすら細めた眼差しと微笑がいざなう。
 殺せる手順や思惑を飲み込む閃くような眼差し。
 だから飲むなと思う。ヒイロは目を閉じた。
 熱い吐息を感じたあとすぐに迫ってくる。唇が重ねられた。
「・・・・。」
 ヒイロは右手で背を引き寄せて、その背をなぞった。
「・・・っ。」
 リリーナがぴくっと反応した。
 スカートの裾にたどりついて、めくり上げたから。
「きゃっ。」
 わかりやすく驚いて離れたから、迫り、カウンターに押し付けて、そのまま胸に触れる。
 声を出させないように再びキスした。
 ショーツのラインをたどって内腿にさわる。
「ん・・っ。」
 リリーナが身を竦ませた。
「・・。」
 重ね着の服の上からでも、柔らかく豊かな胸であることがわかる。
 軽く揉むといよいよ嫌がるようにして手を除けようとする。
 少し予想外の反応だった。
 ヒイロは手を退かせてやることにした。そして一歩後退する。
 リリーナは顔を真っ赤にして睨んでくる。スカートの裾を直して、胸元も押さえた。
 好きだが何でもいいというわけではないらしい。
「ダメ。」
「一応聞くが、どうしてだ?。」
「女の人は子供が出来るからです。」
「・・・・。」
 そこまで飛躍するか・・。と思う。
「私達に子どもを持つ資格はまだありません。」
「・・・・。」
 そんな常識、男の前で通用するか、と思ったりもする。
 特に自分はまともでないのは自覚している。
 だがリリーナは真面目らしい。
「俺の服をめくるのはいいのか?。」
「それとこれは違います。」
「あまりかわらないぞ。」
 自分的には。
「ダメなものはダメです。」
 リリーナは真っ赤だ。
 思い切り拒絶されて、軽くこちらもむっとする。
 だがこれ以上無理なのはわかる。
 あれだけ夜を過ごしているのに、まだ濡れもせず、頑なだ。これではただの乱暴になってしまう。
 何が問題なんだと思うが、リリーナは意識下で身持ちが想像以上に堅いという結論しか出ない。
 乏しいながら胡乱げなのに気がついてリリーナの叱責が飛ぶ。
「ヒイロ、聞いてますか?。」
「聞いてる。」
 通常で自制を強いている上に、ドーリアン夫人からも念を押されて、リリーナはする気無し。
 最悪である。
「・・・・。」
 心で舌を打ちつつ、ヒイロはリリーナの髪に手を伸ばす。
 感のいいもので、これにリリーナは抵抗しなかった。
 髪を解いた。もうこちらが何もしないのを見越して目を閉じてくる。
 やり直しのキスをした。
「・・・・。」
 自分もまだ言っていない感情がある。そこを突かれるのとあまり変わらないのかもしれない。
 ヒイロは唇を離す。後ろのポケットに突っ込んでおいた自分の濃紺の帽子をポケットから出して、ぱすっとリリーナに被せた。
「・・・・・外に出るぞ。俺のホテルに来い。」
「・・・。はい。」
 手を引いてやると嬉しそうにした。
 自分のホテルに来ることこそ問題だろう思う。
 が、あからさますぎて、無理に手を出せば後でただの自己嫌悪に陥りそうだ。
 ドアを開けて、外に出る。ジョーとセツが振り向いた。
 行き先のホテルのカードをジョーに手渡す。明日迎えに来いと言っている。
 そしてボディーガードも今夜は完全にオフということもだ。
 どのみち39時間のタイムテーブルが待っている。
 そういうわけで外に連れ出した。




 去年歩いたバザールを行く。
 食事は二人とも済ませてある時間で、ホットチョコレートをバーのテイクアウトカウンターで所望する。
 両手を温めながら、リリーナは歩く。
 そうしながら街を眺めていた。
 信任投票は明後日。
 街角のラジオやテレビはその施政方針についての検証番組が主だった。
 それについての経済界の動き。
 街の人は浮かれてはいたが浮ついてはいなかった。
 刻まれる歴史の一ページに参加していた。
 議会の動きも活発化してきた。
 圧力団体も増えてきた。
 リリーナはそれらと向き合うことになる。
 ただ、それでも安堵の方が強いようだった。
「よかった・・。」
「敵が増えて喜ぶのはおまえとトレーズくらいだな。」
「一緒にしないでください。」
 ツンとすます。
 ヒイロが微笑った。
「・・・。」
 コロニーでの笑い方だった。
 ああ、本当にガードを外れているんだと思った。
「ヒイロは明日からもうカイロ?。」
「ああ。」
「大学は?。」
「学位を取ったから、しばらく休学する。」
「・・・。」
 いつの間に、と思う。こちら高校すらままなっていない。
「アパートは?。」
「そのままだ。コロニーに行ったら勝手に使っていい。どうせデュオ辺りが勝手に使う。」
「そうします。」
 歩いていくと街頭に火が置かれてそれを暖としている場所があった。
 屋外バーを兼ねて、政治活動家が大勢いた。だが夕刻を過ぎて今はもう談笑の時間だ。
 ヒイロとリリーナはその中を歩いていく。
「そう。しばらくヒイロは地球にいることになるのね。」
「ああ。」
「居心地は?。」
 星の王子さま的にはどうなのだろう。
「・・・・・・・あまり良くないな。」
 格差に閉口していた。環境問題もだ。それはコロニーより酷く地域性を帯び、だからこそコロニー以上に争いと隣りあわせだった。
 火星に行きたいと思っても、この地球を放ってはならないだろう。
「そう・・・・。」
 リリーナはヒイロの眼差しから思いを読み取ろうとその横顔を見た。
 ヒイロは広場の喧騒に眼差しを細くする。
「出来ないことが多い。力になれないことも多い。」
 連合のシャトルを落とした時と同じ気持ちになる。
「・・・・・。」
 火星が遠い。
「俺は民間から行く。おまえはそこからくればいい。」
 焦燥を抱くように、リリーナの肩を引き寄せた。
 彼女が変わりなく破顔した。
 立つ場所は変わっても、去年と変わらない。
「はい。」
 そうして恋人達は口付けしあう。

 温かく甘いのは、手元のチョコレートのためだろう。

























[09/11/19]
■だいぶこらえた如月。
でもWファンにそう低年齢はいないだろうと見越してさくさくと展示。
今後書いたとしてもパスワードとかにはしないつもり・・です。


TVAを見て、ぞくぞくしてます。
7話のこいつら相変わらずなんだなと、思う。エンドレスでも変わらない事してる。
ヒイロとデュオの座っている位置とか、操縦してるのがデュオとか。
トロワがミサイルぶっ放して、ヒイロとデュオに一箇所に固まってるからだ的な発言なんて最高。デュオも軽口で敵対する。
ほんと、相変わらずすぎてたまらない><。


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