プロローグに至るまでの経緯。 始まりは西海岸ロサンゼルス。 1. 西海岸カリフォルニア州、ロサンゼルス市。ウェストハリウッド。 薄暗いコンクリートの階段を勇吹はトントンと登る。部屋の位置は5階の一番奥。一ヶ月前に、この1BR(日本では1DKでユニットバス)のアパートに決めて、そろそろこの帰り道にも馴染んできたところだった。 「ただいまー。」 503号室のドアを開けて内側へと入ると、キッチンのあるリビングの向こうのベットルームのドアが開いてカルノが顔を出した。 「おかえり。勇吹。おまえ飯食った?。」 「いや、まだだけど。」 「じゃ、なんか、食いに出ようぜ。」 荷物を置ききらないうちにそう言われて、勇吹の苦笑いを誘う。 「いいよ。荷物片付けるから、ちょっと待ってて。」 そうカルノを促しておいて勇吹は自分のベットにカバンを降ろした。中に入っていた3冊の参考書を本棚に戻し、筆箱を片付ける。 「今日、家庭教の日?。えらく時間掛かってんじゃん。」 「うん?。家庭教師もしてきたけど、ジョージさんの仕事をやり残していたからそれ片付けてたんだ。」 「まじめー。」 「でっかいお世話。」 観光で来ているので本当は就労してはならないのだが下の不動産屋のジョージ・カナック社長の好意で、勇吹は不動産の事務をさせてもらっていた。ついでに、彼の二番目の奥さん、マーガレットの連れ子のマリアと、彼女との間に出来たマークの週2回3時間の家庭教師もしている。 「今日、午前中ダウンタウンに行ってたんだよ。それで帰ってくるの遅くなちゃってさ。」 「シビックセンター?。」 「うん、そう。あと、日本領事館にも、行ってきたよ。」 言いながら勇吹は戸締りをせっせと済ましていく。 「アレンが一緒だと、その辺結構融通が利くんだ。」 ジョージと前の奥さんとの息子のことだが、彼は弁護士の資格を持っていて、アメリカの法や制度などまったくわからない勇吹の家族探しを手伝ってくれている。弁護士ということで官公庁に入れたり、プライバシーに関わる情報も公開してもらえたりするので、勇吹だけでは調べることが出来なかっただろうことも、彼が一緒ならそれが出来た。彼の手助けは勇吹にとってなによりもありがたい事のはずだった。 アパートやアルバイトのことも合わせて、二人は、随分この家族によくしてもらっている。 トイレを済ませて、勇吹は壁に掛けていたコートを取った。 「お待たせ、行こうか。」 「ああ。」 カルノはぴょんとベットから飛び降りる。早く行こうと勇吹を急かした。今日はずいぶんご機嫌なようだった。 「今日何してたんだよ。嬉しそうじゃん?。」 そう尋ねると、カルノは得意満面になった。そしてキッチンのテーブルの上の紙袋を取り、中の札束の一つを勇吹に放る。 「へ?。」 目を見張ってこんな大金をどうしたんだろうと思う。カルノはVサインをした。 「大勝利だぜ。」 そのセリフに紙袋を見やると、この近所のカジノの名前が印刷されていた。勇吹は事の成り行きを理解する。 「博打かよー。」 「だっておまえ、帰ってくんの遅ぇんだもん。下のじじいが誘うし、面白そうだったからさ。」 「人のせいにすんなよー。」 勇吹はあきれながらも、くれたものだと解釈してちゃっかり自分の財布にそれを収めてしまう。全部でいくらかなと、勇吹は紙袋からその他の札束を取り出して、ピラピラと数え始めた。手の中で札束を送りながらカルノから出てきた名前の人について尋ね返す。 「カロンじいさん、そういう趣味もあるんだ。」 「なんか昔は、その手の奴はなんでもやったらしいぜ。」 カロンとはこのアパートの真向かいのジョージの自宅の隣で、修理屋を営んでいるじいさんのことだ。ジョージの前の奥さんの父親である。カルノはよくそこでバイクや車に乗せてもらったり、好きな銃を改造したりしていた。 カルノは椅子の背を抱きかかえるように座って、相変わらずの勇吹を眺める。 「・・怒んないの?。」 「あんまり癖になるんだったらそうするけど。」 「いーのかよ。ほとんど野放しじゃん。俺。」 金だって使いこむし、喧嘩だってしてくる。とばっちりもこの前くらってる。 けど、勇吹は何も言わない。うまく対処してくれる。一緒にいて鬱陶しくないのはそれが第一の理由かもしれない。 「危なっかしくないからね。カルノは。」 そう言われて、目をパッチリと見開いて驚く。そんなふうに逆に誉められるとは思っても見なかったからだ。 1万ドルまで数えて、恐れ入りましたと勇吹はカルノを称賛した。 アパートのドアに鍵を掛けた。階段を降りる。 外に出て見やると右側にある不動産屋の入口のシャッターはもうとっくに下りていた。家族は向かいの家にいるはずで、明かりが灯る。 勇吹とカルノはアパートの横を走る道路へと左に折れて、上り坂を歩いた。 「何か映画でも見よーぜ。勇吹。」 不意にカルノが提案してきた。 「ん?。いいよ。」 この先の左右どちらかに曲がるだけで、ハリウッドにもビバリーヒルズにも出れる。 「あ、だったらさ、オールナイトで見ないか?。大体そのつもりで、この場所選んだのに、着いてからこっち、ごたごた忙しくて行けなかったからさ。」 「いいな。それ。」 彼は嬉しそうに賛同してくれた。 「評判良いの、今なら、タイタニックか?。」 「うーん。あれさ、なんか男同士で見に行く映画じゃなさそうなんだけど。」 ロマンスも良いが、気軽に見れるアクションもサイコサスペンスも捨てがたい。エイリアンにジュラシック。ロボットやクリーチャー。SFX。 取りあえず先に食事しようということで、タクシーを捕まえてメルローズ通りに行くことにした。 坂を上がりきったところから、クラクションの響く大通りになる。カフェに代わって夜はバーが賑やかだ。他にもマッキントッシュのアップル社の看板や、トナー商社や、ブティックや本屋、薬局などの色とりどりのネオンが町を飾った。 「・・・・・。」 勇吹が足を止めた。隣を歩いていたカルノに視線を向ける。カルノは左側のアパートの2階を眺めていた。 「・・・カルノ?。気付いてる?。」 「・・・。いいや。」 視線を戻して、トトッ、と関わりたくないとばかりにその場から離れようとする。 「逃ーげーるーな。」 勇吹は逃げようとするカルノの衿を引っ張った。1階は美容院になっていたから、傍のアパートの路地に入る。 ガシガシと彼は頭を掻いた。 「ああ、もう。仕方ねぇな。」 勇吹のお節介と無視できなかった自分にあきれながら、手摺を迂回して雨ざらしの階段をカルノは登る。 事態自体は億劫で気に食わないので、容赦なく、塗炭のドアを蹴り上げた。激しくドアが軋んで蝶使いが外れ、壊れて開く。 中には二人の少年と一人の少女がいた。三人とも自分達より1、2歳年下という感じだ。 「あーあ。なんで俺がこんなことしなきゃなんねーかな。」 ずかずかと中に入る。この不法な侵入者に驚き、警戒心をあらわにして、リーデリックは立ち上がった。 「何だよっ。おまえっ。」 「うっせぇ。」 面倒くさかったし一々説明してる場合でもなかったから、一言そう返して、リーデリックを押し退けた。 「ちっ。」 忌々しげに部屋の真ん中のテーブルを見た。上の器材はどういうものなのか一目瞭然だった。テーブルクロスごと引っ張り、それらを無効にする。床に、本は折り目をつけて落ち、割れるものは割れた。 そして、テーブルのすぐ傍のベットで、苦しんでいるカイの肩をつかんだ。 ビクンとカイの身体が大きく震える。 「誰ダッ、オマエハ。」 ゆっくりと起き上がり声を出すために喉を押さえて、魔物は、カイのものではない声で彼の口から言葉を紡ぐ。 「お兄ちゃん・・。」 少女・・アンは口元に掌を当て愕然とした。 「知らねーよ、んなこたな。」 ガっ、とカイの左肩を蹴った。 「痛っ。」 カイが悲鳴を上げた。リーデリックはハッとする。今の声はカイだった。 「カイっ・・。ちょっ・・・てめぇっ。」 魔物はなおも続けた。話しながらカルノの出方を探る。 「私ヲ殺スノカ。コノ子モ巻キ添エニナルゾ。」 悪魔払い(エクソシスト)だと思ったらしい。ケッ、とカルノは含み笑う。 「んな、悪魔に取り憑かれてこいつが死のうと死ぬまいと俺には関係ねーんだよ。」 赤髪の少年は睫毛の長い薄い紫の瞳を細めてそう言い放つ。相手を脅して楽しんでいるようにしか見えなかった。 「てめっ、離れろよ、カイから・・・痛っ。」 「邪魔。」 念動力でリーデリックを突き飛ばす。コケた程度だったが、一瞬、なにで転ばされたかわからなかった。 茫然と座り込むリーデリックの代わりに、アンはそれを理解し、戸棚に駆け寄りそこからピストルを取り出した。目線を鋭くして構えてくる彼女をカルノは一瞥し、ガリッと靴底で更に肩を踏みにじる。 踏んでいる場所は魔物が取り憑いているところだった。それはもがいても逃げられないことに気付いた。魔物はハッとする。 カルノの正体に驚愕した。 「ナ・・ニモノッ・・・。」 目も見開き、その声は強張った。カルノのその中に溶け込む魔の強大さを感じとる。 「へ・・ぇ。俺って結構ハイレベルってか?。」 ガンっと、再度肩を蹴りつけた。 「痛いっ。」 最初の蹴りで腫れ上がっているところに何度も同じ所を打たれ、カイは更に高く声を上げてうめく。 「上等だ。そのまま意識保っていな。」 「っ!?。」 アンはハッとして構えを解いた。カルノの意図に気付く。カルノはしっかり脚を固定すると、リーデリックとアンの方を振り向いて叫んだ。 「おい、どっちでもいいから、窓開けろっ。」 早くしないと痛みが行き過ぎてカイが気絶してしまう。そうなったら悪魔の思うつぼだった。こくんと息を呑んで頷いて、一番近かったアンが素早く反応し窓を開け放つ。 「勇吹っ。いいぜっ。」 「天神地祇っ。」 アパートの2階下から声が聞こえた。アンは窓辺から乗り出し階下の路地に立っている黒髪の少年を見つける。 勇吹は更に言葉を編んでいく。言霊が悪魔に絡み付いていく。結界を割った。 「ガァァァッ・・・イタイイタイッ。」 悪魔がのたうった。 「・・・・。あ・・・。」 カイから悪魔が離れていくのがわかった。襲い掛かって来る虚脱感を身体に感じながら自分の目に映る人の世の者ではないモノと、完全にそれを封じ込めていく術を見る。 「縛々律令っ。」 術の網が完成した。 カイは思わず、すごい、と呟く。 「大丈夫か?。カイっ。・・・・イテ。」 リーデリックは突き飛ばされた時に打った腰が立ちあがった瞬間に痛む。カッコ悪ィと思いながら彼はベットに上った。 「大丈夫?。」 「・・・おまえな。人の心配してんなよ。」 カイをリーデリックは助け起こした。 「なにが、すごいって?。」 「おまえは見えないかもしれないけれど、部屋の真ん中、そこの絨毯の上に、俺に取り憑いていた悪魔が縛り上げられているんだ。」 カイは呟いて、窓から何か合図して寒いからと閉めるカルノを見た。彼はナニモノなのだろうと。 「なんだよ。」 すっごい無愛想にカルノが睨む。 「カルノっ。・・・げ。」 部屋に勇吹が駆け込んできた。が、部屋の有様を見て肩を落とし頭を抱える。カイの肩越しに泥がついているのと、たぶん念動力を使ったんであろう、花瓶が割れていた。 「あーっもうっ、おまえはっ。なんで、そう手荒なんだよっ。」 「うっせぇっ。テメェのお節介に付き合ってやってんだからいーだろ。」 「最初に気付いたのそっちじゃんかよ。」 気になるんなら素直に言えってんだよ、と、ビシッと指差してすっぱりと言いきった。カルノは、ヴ、と返答に困る。 勝ったと嬉しそうに勇吹はへへんと笑った。ポンと肩を叩いてから、勇吹は脇を通りぬけて、カイとリーデリックのいるベットサイドに近づく。リーデリックが一瞬かばうような姿勢を見せたがカイに促されて勇吹に場所を譲った。 勇吹はカイの肩をポンポンと叩いた。穢れを埃みたいに払う。 そんな、簡単に?。 「(すごい・・・。)」 気が清らかなことに驚いた。間違いなくさっきの術を行ったのは彼だ。触れられてくる手がすごく心地良い。 勇吹はカイにしゃべりかける。 「結構呼びつけない方みたいだけど、今回のはちょっと強すぎた悪魔だったんだな。もうよっぽどのことがなければ、こんなことはないよ。」 気さくで優しい言い方だった。黒目黒髪の東洋人・・・・名前がイブキと言っていたから、恐らく日本人だろう。 「はっきり言ってやれよ。お遊びでわけわかんねー術使うからだってよ。」 カルノはうんざりしたように吐く。本当のところを突かれてカイは俯いた。テーブルクロスごと落ちたペンやら魔方陣やら市販されている魔法書が後ろめたかった。 が、勇吹の言葉に顔を上げた。 「しょうがないだろ。自分がなんなのか知りたかったんだろうからさ。・・でも、カルノが言っていることも、マジな話だから。」 「・・はい。」 勇吹の言葉はなんだか素直に受け入れられる。これだけ能力を持っているのに、恩着せがましさも高慢さもないからだ。そう言った意味ならカルノもそうだった。面倒くさそうにするので魔法が嫌いなのが露骨にわかる。けれど彼もすごい術者に違いなかった。悪魔を怖がらせるほどに、強い。勇吹と違ってその素振りも気も禍々しいばかりなのだが・・・。 ・・・カルノが悪魔に触れているのにカイは気付く。 「え・・。」 目を見張る。カルノが・・触れた指先から、悪魔を吸い取るように取り込んでいく。 「あ・・なた・・・たちは・・・!?。」 カルノはまったく無視してきた。勇吹は苦笑して肩をすくめる。 「まー、いろいろ事情があるんだ。」 カイは押し黙った。これだけの能力者だ。何もないわけがない。自分には理解できない状態を抱えているはずだった。 黙ったまま、詮索してこないところを見ると、カイも詮索されて嫌な経験でもあるのだろう。疲れていて頭も働かないということもあろうが、なんにせよ聞いてこない方が楽だった。 「はい、これ。」 勇吹は、緑色のおりがみで折った亀を差し出した。 「持ってるといいよ。そーだな一週間くらいでいいや。しばらくまだ取り憑かれやすい身体になっていると思うから。」 勇吹はおりがみを普段から手帳に挟んで持ち歩いていた。この亀はカルノに呼ばれるのを待っている時に作ったもので、甲羅にマジックで言霊を書き、折ることで神気を封じ込めて作ったお守りだ。 「はい。」 受け取る。片掌に乗るくらいの小さな亀だった。 「一週間経ったら、ライターとかで燃やしてもいいから。あ、でもお年寄りの方に上げてもいいかな。亀は長寿の祈願になるから。」 「あ、はい。」 カイは頷いた。 「おい、勇吹。」 「ああ、行くよ。・・・じゃ、お騒がせ。」 ひらひらと手を振って、勇吹はカルノの後についた。 アンが入ってくる。カルノと肩がぶつかった。お湯の入った桶とタオルと救急箱を隣の部屋から持ってきたらしい。 「あ、悪ぃ。」 カルノはアンが落としそうになる救急箱を押さえる。 「分けて持ってくりゃいいのに。」 あきれたふうに言って、近くの棚にそれを乗せて置いた。 「そうかも。」 アンは照れて罰が悪そうにはにかんだ。 「じゃ、お邪魔さま。」 「あ・・。」 出て行く彼らをリーデリックが追いかける。 「おいっ。名前教えてくれないか?。俺、リーデリック・ウィリアム。助けてくれた奴はカイ・トナー。女はアン・グロリア。えと、カルノとイブキだっけ。フルネーム教えてくれよ。」 「残念ながら、トップシークレット。」 勇吹はそう返事した。 トントンと階段を降りる。 「考えるとさ。俺達もずいぶん「映画」だよな、実際。」 カルノは呟いた。勇吹は肩をすくめる。同意見だった。 「誰もギャラは払ってくれないけどね。」 正体の見えない組織。SFXではない本物の『未確認物体』。 出来れば、観客席にいたいところだ。 *** アメリカに来て、はや一ヶ月が経とうとしていた。自分が傍にいることで家族や親戚を危険な目に合わせるような気がして、家族を探すと言う名目で、こんな遠くにまで来てしまった。 日本に居づらい、居ても埒があかないということもあった。 社会的制約の比較的少ない学生である自分は、内外問わず割と自由に活動できる。多少自分を守れる能力もあることだし、やってみてもリスクは少ないだろうと思って、日本は祖父や兄に任せて、海外に出ることは案外簡単に思いついた。 アメリカを選んだのは、カルノがアメリカの国籍を持っているからだった。外国人だと国によってはビザの発行に審査が入るので、カルノの偽造パスポートによる入国の際の面倒を避けたかったというのが理由だ。 けれど、なんにせよアメリカは大きく、よく知っている国でもあり、情報大国だ。うってつけと言えばそうだ。 先にも言ったように渡米して住むのに選んだのは、ロサンゼルス市、ウェストハリウッド。 大学が近くにあるためアパートの多い町になっている。 その名の通りハリウッドが目と鼻の先にある。ミーハー心も手伝ってこの辺に決めた。 ・・・・夕食を済ませ、映画も一本見て、勇吹とカルノは、アレンに教えてもらった行きつけのバーのカウンターに座っていた。 ガラは日本に比べてあまりよくはないが、これでもマシなバーだった。それにギャングの下っ端そうな連中のお誘いをお断りすると言うのは、日本では味わえないスリリングさがあっていい。 カルノは、左側に座る勇吹を横目に見る。彼は映画のパンフレットを見ながらグラスの中のブランデーをゆらゆら揺らしていた。 「(・・・・・・普通の生活が似合う奴だよな。)」 異端な能力者ではあるからそんな生活はありえにくいのだけれど。 そう何気なく思うのは、人付き合いが彼は本当に上手いと思うからだ。 アレンたち兄弟の事をきっかけにしてジョージの気を引かせたのも彼だし、一家との付き合いを円満にしているのも彼だ。 勇吹もジョージ達一家に家族を重ねているみたいだった。 「・・・・最近、おまえ、よくしゃべるよな。」 「え・・。・・・・。」 そんなふうに言われることに勇吹は思い当たる所があった。少し眠気を飛ばすようにミネラルウォーターのペットボトルを取る。コップに注ぎながら、カルノの二の句を待った。 「おまえって、本当悩むとなんにもしゃべんなくなるからよ。」 「なんか、俺がおしゃべりみたいな言い方だなぁ。」 「俺よりはしゃべんだろ。」 「そりゃぁね。」 日本とは違う生活習慣に合わせるのに大変で余計なことを考える暇がなかったのだ。自然地でいってしまうところも出てくる。 勇吹は肩をすくめた。時々これが自分だなと思う。 「楽しいよ。やっぱりさ。いろいろまだ抱えてるけど、こうしていろんな奴に会ってみると、そんなの自分だけじゃないって思えるしさ。」 「あんな狭い国にいるより、おまえは世界を股に架けてた方が性に合ってんじゃねーの?。」 「かもね。」 自信たっぷりだ。 「誰かさん見てると、どの程度まで奔放にしていいかわかるし。」 右の何もないところに視線を泳がす。 「あ?。」 俺のことかよと、カルノは憮然とする。勇吹は、こちらを振り向いて、くすっと笑うと、なんてね、と呟いた。 「って言うか・・・、俺、一人じゃここにいられないよ。怖くてさ。」 ティンッ、とカルノのウィスキーグラスに自分のグラスをぶつけた。 「サンキュ。カルノ。」 「・・・・・・バーカ。」 照れて今度はカルノが視線を泳がせて、呟いた。 |