8.
リーデリックはパソコンを打つ手を早めた。
「くそっ。」
警察も研究所も手ごわかった。
何度機械を止めようとしても、すぐに手直しをしてくる。
多少の支障ぐらいしかきたせてない。
・・・・・目標補足、コード『シェーン』、コード『ジン』、座標・・・。
「・・・・っ。」
中々彼らに遭遇できないでいた。警察はもう彼らの元についているというのに。
「やっぱり霊捜査した方が早い。」
カイの言葉にリーデリックは一瞬表情を歪ませる。
「おまえのせいじゃない。」
「誰も俺のせいなんて思ってねーよ。俺が出来なかったらはっきり言って他の誰にもできねーよ。そーじゃなくて、この前みたいに悪魔がよってくるぞ。」
「勇吹に祓ってもらうからいいさ。」
「あのなぁ・・・。」
「この前と気構えが違う。出来るよ。」
ジッ・・とリーデリックが、自分を見つめてくる。
「・・・んじゃ。さっさとやるか。俺は情報をバグらせる方に専念させてもらうぜ。」
無茶で抜けているところを、それでいて決めたら融通のきかないところをも知っている上でこの友人はそれでも背中を押してくれる一言を言ってくれる。
「・・・。シータっ。運転。」
隣の応接室の部屋の扉と、・・・、
この能力と付き合っていくための扉を開けた。
***
歓楽街の中に紛れ込んでようやく追ってもかわせたようだった。着替えも薬も買った。郵便局で荷物を引き取り、一部をコインロッカーに預けもした。
カルノに逮捕令状が出ている事情も話した。
「・・・・・。」
どこかで休もうと思った。自分もいい加減走り疲れていた。
左にホテルがあった。歓楽街の安ホテルとくればそういうところに決まっていたが、勇吹は迷わず左に折れる。
料金を払って、鍵を受取り部屋に入る。3階の部屋だった。
勇吹は奥へと足早に入り、外を伺いカーテンを締め切る。カルノはドアの内側に寄り掛かっていた。余計な姿を外にさらさないためだ。
「平気。まだ誰もいない。」
確認を取って勇吹が駆け寄ってくる。
「・・・・時間の問題だろうけどな。」
腹ただしげにカルノはベッドサイドに荷物をドサッと放った。
「ん・・。でもちょっとは持つだろ。・・・俺、起きてるからさ、休んでなよ。」
勇吹は苦笑う。・・・気を使うような笑い方だった。
「・・・・・。勇吹。おまえの手当ての方が先だよ。」
「・・・・。」
勇吹を促すように右肩に手を置いてベットに座らせた。カルノは彼の前に立膝で前に立って、彼の手を取った。そっと傷口を痛めないように応急処置でしたハンカチと手袋を剥がし、様子を見る。
「これ、なかなか治らないぞ。」
両掌の甲は深く裂けて、まだ血さえと持っていない。
「・・俺、治癒の魔法は使えねぇんだからよ。」
弾丸がかすめて出来た傷も思ったより左肩をえぐっていた。ダンガリーのシャツをカルノは脱がす。
生地が傷口に張りついて、勇吹はやっとそこで顔をしかめた。
安ホテルにシャワーなんて気のきいた物があるわけないので、カバンから水とタオルを取り出して、傷口の周辺を拭いた。
「無茶すんなよ。」
そう言ったら勇吹がすごく不満そうな顔をした。
「?。なんだよ。」
「・・・・。」
勇吹は押し黙った。
買ってきたオキシドールのスプレーをかけ、消毒し、大き目のガーゼを当て、傷口を包帯で押さえる。
「・・・・。カルノ。なんで、俺だけ突き飛ばしたんだよ。」
「・・・・。」
「おまえ、いつか俺守って死んじゃうよ。」
その言を口にした瞬間、ぼろっと言葉が堰を切る。
「俺、おまえのなんなんだよ。」
勇吹は俯いた。
「そこまでして守るような奴じゃないだろ。」
「勇吹。」
「・・・・。」
微かに浮かんだ涙を拭って、ベットから立ち上がった。
リュックサックから白のハイネックシャツをつかんで、勇吹は着る。
「・・・・・かもな。」
カルノは呟いた。勇吹は強いから。
「・・・・。」
サリエルが言ったセリフを思い出す。
本当は俺の傍じゃないもっと安全な所が彼には用意されている。籠の中の鳥も生き方の一つだろう。
「・・・・(イブキ。)」
ツン・・と、勇吹の服の裾を引いた。
カルノはベットに腰を下ろして、彼の身を引き寄せる。頬を寄せてもたれる。
「・・・・カルノ?。」
突き放すような言葉に傷ついて、けれど今度はこの仕草に戸惑う。
「・・・・。」
警察達はすぐそこまで来ているはずだった。彼らの中に霊能者がいれば必ずこの位置を見つけてくる。
自分がサイレンを鳴らして歩いているようなものだった。人ではない者達が囁いて、足跡を消させない。
だから、・・こうしてられるのもたぶん少しだけ。
「・・っ!。」
「え。」
二人は立ち起こった静電気に身をすくめた。
――――――― 死ネ
思念は既に人ではない声だった。
命を捧げて作り出した呪詛。間違いなく勇吹の霊力とカルノの魔力を封じる。
何かが起こる前触れだった。
「・・・・。!?。」
愕然とした。ここには勇吹がいるのに。
カーテン越しに光る赤い点。
赤外線暗視スコープだ。
「いきなり、抹消かよっ・・。」
伏せろっ、とカルノは勇吹の肩の服をつかんだ。
「カルノ?。・・・・うわっ。」
窓ガラスが全て割れ、カーテンが吹っ飛ぶ。
散弾銃の弾は、ベットスタンドを壊し、絵画を落としていった。あっという間に壁は蜂の巣になる。
「勇吹、もっと頭低くしてろ。大丈夫、弾が飛んできたら、俺が念動力で防ぐから。」
カルノは念動力でベットを立てた。銃撃が一層酷くなる。
銃声のたびに萎縮する勇吹の身体を抱きしめた。
「・・・・・。・・。」
最初の攻撃が一度止んだ。
変わりにサーチライトが点けられる。そして赤外線が再び、ちらちらと部屋の中を探りだした。
カルノはベットの傍らの勇吹の荷物を足で寄せる。
銃と弾丸のカセットが入ったケースを中から出す。
郵便局から引き取ってきた荷物から持ってきたものだった。
「っ!。」
ドタドタと階下から音がする。警察が突入しているのだ。
「廊下を10メートル、階段を降りてロビーに出る。・・・銃撃ン中突っ切ることになるだろうな。」
かろうじて念動力は使えるのがせめてものだが、切っ先の鋭い弾が念動力の壁を突き抜ける可能性もあった。
「・・・・・。」
勇吹の表情が堅い。
「・・・勇吹。」
カルノは勇吹の目を見ずに言った。
「ここらで、別れようぜ、俺達。」
「・・・・っ!。」
「俺が連中引きつけるから、おまえはしばらくここに残って、非常口から逃げろ。」
「ちょっと、待てよ。なんでそうなんだよっ。」
「・・・・俺と行動してると、いろんなモノが寄ってきて、どうしても居場所が知れちまう。・・・俺の力は所詮悪魔系だからな。一緒になって危ない目に会うこともねーよ。」
「俺はそんなふうに思ったことないよ。」
「だろな。」
おまえはそう言う奴だ。
「二人で行って、俺の方が足手纏いになって、カルノが死ぬ確率と、一人で行かせてカルノが死ぬ確率。どっちが高い?。」
「・・・・。」
「俺がいれば、警察も躊躇してくる。・・・一人で行かせた方が、おまえの死ぬ確率が高いに決まってるだろ。・・・ゼロだからだ。」
「・・・・・。」
カルノはケースを開け、銃を取り出した。口径9ミリ装弾数13のオートマチックの拳銃を3丁と、一度に3発撃てるのが1丁、『ベレッタM93R』を組み立て始める。
「一個はおまえが持ってろ。」
放られて勇吹は息を呑んだ。カロンに改造してもらったものだった。
「・・・・おまえ用に改造してある。肩が吹っ飛ばないようにな。殺傷力は弱い。有効射程距離は30メートル。10メートルくらいの至近距離で急所ねらいで撃たなきゃ、まず人は死なないと思う。護身用って奴だ。」
カルノは銃創に弾丸のカセットを篭める。さらに予備の弾を、オート銃の方はポケットに4つ。ベレッタ用はウェストバックに1つ放り入れた。
ウェストバックには他にナイフ、懐中電灯、水など、サバイバルに向いたものが入っていた。
「・・・・別れていけば、間違いなく生き残れる。わざわざ、俺と同じ確率になるこたねぇよ。」
カルノは黙って目を伏せた。でも、聞かねぇだろうな、と思う。
気絶させるしかなさそうだった。
かちり、と安全装置を外す音が傍から聞こえた。
「・・・。・・じゃあ、同じにするよ。」
勇吹は自分の頭に拳銃を当てた。
「おまえが死んだら、俺はこうする。」
「・・・っ。勇吹っ。」
唇の端を引いて少し笑いながら、勇吹が呟く。
「ついでに世界も道連れにしてやる。」
引き金を引いて、銃が、カチッと鳴った。
「・・・・っ。」
「俺の気持ちがわかったなら、そういうことニ度と言うな。」
言って勇吹は、床に転がった弾丸のカセットを銃創に篭める。
「・・・・・。ついていって足手纏いになるのは目に見えてるから。あまりエラそうなこと、言えないけど。」
「・・・・。」
言ったら勇吹は本当にする。当身するわけにもいかなくなった。
黙って考える。
守り抜けるかと。
「・・・・ブーツの靴紐、固く結べよ。・・安全装置は外して、威嚇として撃てばいい。但し足元だ。」
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