朝の礼拝




 勇吹が聖堂に入っていく。
 その後姿を見送り、いつものようにカルノもアーチに寄り掛かった。
 彼はかしずいて、そっと瞳を目蓋のうちに隠して、両手を組んだ。
 アンダルシアの小さな教会の、朝の風景になりつつある。
「・・・・・熱心だよな、彼。」
 幼馴染がやってきた。
「司祭のおまえが言う台詞じゃねーよな。」
 言って、カルノは、その敬虔な姿を見つめる。
「落ちつくんだったっけ。」
「ああ。・・。」
 今日を生きることを・・、自分が存在しているせいで死んでいった人達に、伝える。
 許されるためでなく、感謝のためでもなく。
 失いたくなかった思いを、助けられなかった後悔を、身に刻み、
 優しかった日々を、死に様を鮮烈に覚えておくため。
「・・おまえは祈ったためしがないな。」
「祈るより・・あいつを眺めている方がいい。」
 勇吹は自分の罪を理解し、自分の罪でないものも知っている。
「勇吹が祈ってるかぎり、俺も忘れないから。・・。」
 カルノは勇吹を見つめ、心を重ねる。
 彼にふりそそぐ光はいつだって優しかった。
 それは、死んでいった彼らの思いだと、信じられる。
 勇吹が祈ってくれるなら・・自分もこんなふうにふりそそぐ光になろうと思うから。
「リージェス。はいよ、懺悔室の鍵。渡しとくぜ。」
「グラシアス。ルシアン。」
「俺は、せめておまえ達が離れ離れにならないように祈るよ。じゃ、邪魔したな。」
 一度、ルシアンは勇吹の後姿を眺めた。
 十字を切った。
 許されていることを伝えるために。