開かずの懺悔室




 波動の海に意識を投げ入れた。
 プールに飛び込んだ時の、頭の後ろで泡が弾けるみたいな感覚、・・・・それが過ぎると、360度の世界が広がる。
 たくさんの短波や長波を手繰り寄せ、あとはラジオのBAND TUNNINGと同じ。
 混沌としたノイズがフッと、人の声や精霊たちの囁きに変わった。
 もんどりを打ったような人の思念にも慣れてきていた。
 ここは、・・・懺悔室という名の盗聴室。
 勇吹は傍らにいて、この手を握り、一緒に聞いてくれている。
 知ってどうするつもりもない。
 ただ把握しようと思って続けている行為だ。
 勇吹の右手がペンを取る。
 日誌の今日のページに、聞き取れた出来事を書いていく。
 小競り合いから戦争まで、噂話から政略謀略まで。
 始めてから半年ほど過ぎ、500ページの白紙のページは、もうだいぶ埋まってきていた。
 小1時間ほどで、やめる。
「ふう。」
 ヘッドホンをはずすような感覚で、音が遠のいた。
 カルノは勇吹が書いたものを眺めやる。
 書いてない、でもカルノは気になったいくつかの話を言って指示し、書き足してもらう。
 これで終わり。
「明日は?。」
「んー。・・シェーラさん達次第だけど。」
「今日飲んで騒いで、・・。午前中、買い物につきあうんだろ。・・シエスタにでもするか。帰りに。」
「うん。そうだね。」
 別にここでしなければならないというものでもない。家や庭ですることもある。
 ただここは、開かずの懺悔室で、
 前体制化時代に、通信傍受の機器を装備している。
 元々建付けが悪かった上に鍵をなくしたとか、前の司祭がカモフラージュに一計を興じたのだ。
 チューニングしやすい環境はカルノの精神の負担を減らす。
「外に誰もいないね、出よっか。」
「ああ。・・腹減った。」。
 マホガニーの懺悔室は、建付け悪いふうもなく戸は静かに開いて、やはり閉じる時の鍵の音もしっかり油差しが行き届いているのか音はしなかった。
 午前8時になろうとしていた。