セーナ




 三毛猫ヒルダが、にゃーんと勇吹の後をついてくる。
「イカあげたら、腰抜けになるかなぁ。」
 言いながら、スープのベーコンをおすそわけする。
 勇吹はデザート以外の料理を並べてしまって自分も席についた。
 シェーラとユーハを招いた夕食。
 海老とイカのマリネをあわせた冷製サラダ。もちろんオリーブは欠かさない。
 トマトのスープ、午後一に焼いたパン。
 メインはパエリアで、カラス貝がピンと跳ねる。
 お酒は、シェーラが持ってきた、ヘレスのシェリー酒だ。
 最後に、エスプレッソにバニラアイスクリームを浮かべたデザートを。
 こんな料理できたっけと尋ねられ、近所のお姉さんがいろいろ世話を焼いてくれるのだと答える。
 集まりをソファに移して、セビリアのビールとサングリアで軽食を囲んだ。
「幽棲極めるかと思ってたけど、そうでもないじゃない。」
 シェーラの一言に、勇吹はふふんと笑う。
「投資は、グローバルで速攻で、シビアですから。・・人王だった奴の先見は、一般投資家と変わらないということで、大概の投資家が判断の基準をマンハッタンに移してくれました。」
 人格より、数字がものをいう世界だ。
 かなりの実績を上げれば名声は聞こえてはくるが、なかなかそこまでは行かないものだ。
 絵の話になって、ユーハが今度画いてとしつこいので水彩画ならとカルノは妥協し、ヌードで画けと言ったらそれは勇吹に怒られたりしていた。
 夜も深くなって、勇吹は少し眠そうにしていた。
「おまえ、先に休んだら?。」
「そうさせてもらおうかな。」
 カルノの言葉に素直に頷いて、ヒルダをユーハの膝の上に預けると、立ち上がった。
「おやすみー。」
 と、猫の手を借りて振りながら、ユーハが言った。
「おやすみなさい。」
「・・。」
 勇吹がリビングを出る後を追うようにカルノも立ち上がった。
「少し、失礼するぜ。」
「ああ。おかまいなく。」
 シェーラは、肩をすくめた。