夜のとばり




 東の部屋は寝室だ。
 アンダルシアの朝は早い。変わりにシエスタがある。
 日の出で目覚め、
 シエスタに南の陽射と西日を避けられる。
 カルノは、戸を押し開けて入る。相変わらずノックはしない。
 ナイトウエアに着替える勇吹が振り返った。
「・・。」
「・・・・・平気だよ。今日は楽しかったから。すごく気分がいいんだ。」
 勇吹は微笑んだ。タオルケットを籠から取ってベットの上に広げる。
「大丈夫、眠れるよ。シェーラさん達に悪いから早く・・・。」
 強がりは聞かず近づいて、頬に掌を伸ばす・・感触と温もりを伝えるように、そっと当てた。
「それでも・・死んだ奴らのこと、思い出してんだろうが。」
「・・ん。・・。」
「思い出さずにはいられないだろ。」
 久しぶりに彼らと会って楽しくても、それに伴って辛かったことだって思い出す。
 勇吹は目を伏せた。
「ん・・・。」
 わかっている。だから勇吹も頷いた。
 頬から掌を離し、傍にきて首筋に頭を倒してくる。ぱさっとタオルケットが床に落ちた。
「・・・。」
 背中に両腕が伸ばされて絡んだ。
 震えが伝わってくる。
 被さるようにカルノは抱き返した。こうしていれば少し勇吹が落ち着くのも、知ってる。
「・・・・。」
 勇吹が顔を上げた。
「背が高くなったね。カルノ。」
「それを今、聞くの?。」
 ・・そうして、ベットに促し、座らせた。
 タオルケットを拾い上げ勇吹に掛けてやる。
「・・、カルノ。・・・今日は眠りを掛けて。」
「・・・・・そうだな。」
 ジャスミンの白い花が散った。甘い香りの中に爽やかな感触が残る花だ。
 花びらと両手の中で、勇吹が眠りに落ちていく。
 とばりを下ろすように。
 使ったのは久しぶりだ。2ヶ月前か。
 カルノは屈んで、勇吹の前髪を撫で上げて、額にキスを落とした。