物議




 起きたら勇吹とカルノの姿が無かったので寝ているユーハを残して、シェーラは気配を手繰り、坂の上の教会に辿り着いた。
 こういうのに無縁な二人だと思っていたので、あっけにとられながら、中に入る。
 石造りの建物だけあって、夜の空気を残してひんやりしていた。
 ・・・・いた。カルノが振り返る。その右アーチの向こうに勇吹の姿を見つけた。
 シェーラはカルノを手招きした。
「いつも?。」
「毎日。」
「・・改宗したの?。」
「してねーよ。シントーのまんま。祈るのに場所は関係ない、ってさ。」
「・・・。さすが日本人。」
「神さま仏さま天神さま、に、キリストさま、ってか。」
「・・・・よく司祭が許すわね。」
 憮然と呟いた。なんか怒っているみたいだった。
 毎日こんなことまでして、不甲斐なく思うのだろう。
「ああ、ここの司祭、俺の古い悪友だから、平気。」
「・・・・。あんたに幼馴染がいたの?。」
「いたんだな。俺もびっくりした。」
 くくっとカルノが笑った。
 こんなふうに、くすぐったそうに笑える奴だったっけ。
「・・・。」
 シェーラは眩しさと遠さとで目を細める。
 本当に・・、まるで違う世界の住人のようだ。
「・・・なにしてんのよ。本当に。あんたたち。」
「あんまりがっかりするなよ。」
「するわ。」
「俺達はこれまで起きたことを忘れるために生きてるわけじゃない。」
「・・・・。」
「だから習慣だって変わる。」
 生きるために。前に進むために。
「ここはカトリックの国だから、不自然なことはしたくないんだってよ。」
「・・・。」
 黙りこくって、二の句を告げようとしたとき、またもや扉が開いた。
 ユーハだった。
「ちょっと置いていかないでくださいっスよ。へー、あー、勇吹祈ってるんだ。」
 さっさと中に入って、勇吹の横に立った。
 びっくりして勇吹が顔を上げる。
 おかまいもせず手を組んで、目を閉じた。
 困ったように勇吹は笑い、そして、合わせるように目を閉じた。
「・・・・・日本人て信心深かったっけ。」
「さあ。」
「こういうもん?。」
「なんじゃねーの?。」
 カルノが答えると、シェーラは扉に寄りかかって深い溜息をついた。
 二人の後姿を見つめる。
 前に垂れる髪を後ろに流した。話を変える。
「・・・勇吹は歳をとらなくなったね。」
 カルノは目を細めた。
「人王の後遺症?。」
「ああ。」
「そういうのも、こういう行為に反映されてくるわけ?。」
「さあな。」
「あんたにとっては、二人目よね。」
「・・・・。」