二千年後のピエタ




 さて、救世主は現れたのか。
 待望された約束の地は得られたか。


 言えることは二つ、
 勇吹は救世主たることを受けとめもしなかったし、
 永遠の地を与えもしなかった。

 Do not cling to me.

 期待は失望に変えられた。


 地上の、一地域の出来事に過ぎない。
 まして、人道からは程遠い世界の一個人に対する凄惨な行為など。
 目の当たりに報道されたのはワンシーン。


 後ろ手の縄を解かれ、勇吹は十字架に寄りかかった。
 俺を殺すように。
 そして両手を上げた。
 罪状が頭上に貼り付けられる。
 ”王もまたいずれ脅威となる” と。
 掌に楔が打たれた。
 そして鬨の声。

 俺が神様のところに行けば全部終わるから。
 だから、もう誰も死なないで。
 夕べの言葉。

 楔を打ちつけられた直後、
 銃を構える音が、嫌に生々しく聞こえた。
 薪には炎をがくべられる。
 肉体の消滅による復活阻止措置。


 空を裂くような銃声が轟く。
 左肩から、斜めに銃弾が打ち込まれた。
 ・・・・硝煙と炎が力を失っていく体を包んでいく。
 神の手がそこまで伸びていた。


「渡さない。」
 黒い翼を開く。勇吹が施した神のごとき呪いの痛みなど。
 ・・・・雷を落とす。十字架を砕き、カルノは炎の中に立った。
 その腕に勇吹を、抱きとめて。

 悪魔は、群集に向かい笑う・・・泣きながら。
 そして、消えた。
 一切の勇吹の呪いが効力を失せる。魔法士達は援護にかかった。