死の淵




 ほったらかしのベッドの上に落ちる。埃が舞った。
 瞬間移動の衝撃も冷めぬ間に、カルノは唇を重ね合わせた。
 血の味がする。
 抵抗する勇吹を羽交い締めにした。
 銃痕と楔の傷を癒していく。
「離せっ。終わりにしなきゃ。俺が死んで、全部っ。」
「終わらねぇよっ。おまえが死んだって次に、誰かがまたおまえと同じ目に合うだけだ。二千年先でも繰り返される。終らねぇよっ。」
 勇吹に纏わりつく罪状を剥ぎとった。
「だから、おまえはおまえを生きろよ。人間が愚かなのをおまえが責任とることなんか無いっ。」
「・・それだけじゃないだろっ。俺自身が地上に過ぎた力なんだっ。」
「そんなに死にてぇなら、俺も死んでおまえのその魂を食らってやる。おまえをこのまま見過ごして神になんかに渡さない。俺の傍に置いて、誰が渡すものか。」
「カルノっ・・、だめだっ。死ぬのは俺だけだっ。」
「そんなのは許さねぇっつってんだよっ。」
 恫喝した。勇吹が声を失った。
 カルノも息を切らした。もう疲れていた。けど伝えたい言葉が溢れて止まらない。
 勇吹の向こうに死の谷が見える。
「・・・怖いって言えよ。怖いって。なんで我慢すんだよ。」
「・・・怖いよ。怖かったに決まってる。・・・死にたくない。生きていたい。他の・・・俺がしたかった生き方がしたい。」
「しろよっ。」
「できないっ。・・・俺はおまえ無しでは生きていくことが出来ない。この身はいつだって誰かが狙ってる。 それを守れるのはおまえしかいない。誰が好き好んで一番好きな奴をこんなに巻き込んで・・・っ。」
「俺の覚悟なんてとうの昔に出来ている。俺はおまえを守るために強くなったんだ。」
 聞いた勇吹がすごく悲しそうな顔になった。
 首を横に振った。
 おまえは俺のものじゃない、と、呟く。
 どうしてと思った。そしてただ伝える。
「俺は・・・俺は、生きているおまえがほしい。もうずっとそれだけを思ってきた。」
 頬に両手を当てこの温もりを確かに感じながら、エゴを、俺の勝手な想いだけを言葉にする。
「叶えてよ。勇吹。」
 契るということがこれなら、たぶんこういうことだ。
「俺はおまえを愛している。」
「・・カルノ。」
「おまえは俺の傍にずっといるんだ。いいな。」
 生きる理由にして。



 長い沈黙と逡巡のあと、勇吹は、
「・・・うん。」
 呟いて、小さく頷いた。