声 「さあて。久しぶりだから使えっかな。」 ルシアンは両の指先をぽきぽきっと鳴らした。 呆れ顔の友人を尻目に、機器の電源を入れていく。 カルノはぼやいた。 「胡っ散くせー、教会。」 なんつーもんを教会に置いてんだよ、と渡されたイヤフォンを右耳に押し込んだ。 地上波だけでも、チェック入れておくか?、という提案に乗って、どこに盗聴施設があるのかと思えば、彼の仕事先だった。 しかも懺悔室。ドアが開かなくなったとか言って、先代の司祭ルシアンの親父が改造したらしい。 「そりゃー教会にゃ、一つや二つ不思議があっても誰も不思議に思わないからな。」 こういうものが必要な時代があったんだよ、とこともなげにルシアンは言った。 つまみを回していき、飛び交っている無線の音を拾おうとする。 音質は良かった。さほど苦も無く、管制塔と交信する旅客機の無線にチューニングが合わされる。 要領を掴ませるために、ルシアンはカルノに機器をいじらせた。 「聞こえ、いいだろ。」 「ああ、・・・。」 ここらに高すぎる山や、電磁系の施設が無いためだとルシアンは説明してくれた。 カルノはつまみを一定の場所にとどめては、傍受先を変えていく。 政府、警察、戦闘機の無線。 とりあえずわかったことがある。 ここへの移動が制限されていることだ。 「・・・・。」 シェーラ・・だな、と直感で思った。 30分ほどして、カルノはイヤフォンをはずす。 「・・・・・サンキュ。かなり参考になった。」 息をつき、口元に手をあて、カルノは考える。 友人達に・・状況報告するタイミングと方法についてだ。 勇吹の回復を待つか、それでは遅すぎる人達もいる。 人々の思念で不安定な場所に、勇吹かレヴィのフォロー無しに精神を開放して意思を伝える自信もない。 「リージェス。考えるのは家でやれよ。・・おまえが長いこと留守にしてると、イブキが不安定になる。」 「・・ん、ああ、そうだな。」 促されて席を立つ。 二人は懺悔室を出た。 ルシアンは一先ずこのまま家に帰ることにしていた。父がいるにしても普段取り仕切っている司祭が教会を三日も留守にしているのはまずいし、明日は日曜日で礼拝の準備もあった。 彼と別れて、帰路につく。 このあたりは旧家が多かった。丘を隔てるので、別荘地は教会からもう少し遠い。 野原の向こうには海が見え、一足早く夜が訪れようとしていた。 カルノは電話の受話器を取った。 番号を押して、電話台の傍の壁に寄りかかる。 何から話そうと、思って大きく息を吐いた。 ゴトッ・・と、向こうが受話器を上げた。良かった、事務所にいたようだった。 <<・・・・カルノ?。>> 声を聞くのがなんだか久しぶりのような気がした。 「ああ・・・。・・ナギ。」 <<おまえはっ・・。あんな、無茶して・・。>> 「勇吹ほどじゃねぇよ・・。あんなの。」 <<・・・そういう問題じゃない。>> 「そうだな。・・ごめん。」 ナギの声に、弱ったな、と思う。 彼女は、状況を報告した。 キタブエルヒメクトが巡礼の南下を封鎖したこと。 また思想統制は、西を騎士団が、東を東海三山が行っていること。 「・・・。」 それなら事態は時期に収束に向かうだろう。 カルノは用件を伝えた。 「勇吹、治したけど・・、点滴とか、回復のための治療は、日本の病院の方がいいと思うんだ。・・家族もいるしさ。」 <<・・わかった。必要な手続きをとろう。>> 「俺も、勇吹も、大丈夫だから。」 <<・・うん。>> 「この世界から抜けるちょうどいい、・・・口実になったよ。」 だから、・・・泣かないで。 |