三重の痛み 大都会の奢侈さのない、片田舎の小さな信仰を守れるほどの教会に、ちょっとした変化が起きた。 「(・・・なーんて、な。モノ書きか俺は。)」 いつの間に入ってきたんだ?、と思いながら頭を掻いてルシアンは勇吹の姿を望めるアーチから踵を返した。外に出る。 今朝は彼に教会を貸してあげよう。なんとなくそうしてあげたい。 彼はキリスト者でないから、ここにくるのに負い目があるみたいだった。 石段に座り込んで両手に顎をのっけて、来るだろう奴を待っていると、案の定、向こうからリージェスが走ってくる。 大方、寝とぼけて置いてかれたのだろう。 「おそようさん。」 「ルシアン、てめぇ。」 「俺がそそのかしたんじゃないぜ。ほら早く行けよ。恋人が一人で中にいるんだぜ。」 ルシアンは聖堂を指差した。 「今日は貸切にしてやるよ。」 片目を瞑って言いやった。 天に声が届く場所だった。 勇吹は左手を見、右手を見た。慣れないなりに組み合わせて目を閉じる。 自分を追いこまないように、死者達と向き合う。 「・・・。」 生きてていい?。 あの時、嬉しかったんだ。 「 傍に置いて、誰が渡すものか。 」 触れた唇も、 体温も、全部愛しくて、離れたくないと思ってしまった。 錯覚だと、いつも思っていたから、嬉しかったんだ。。 優しい嘘なら、いっそ神様のモノになって、愛を得て犯された方がマシだと思った。 傍に、 ずっと、傍にいさせて。 扉が閉まる音に勇吹は振り向いた。 アーチに立つカルノに微笑んだ。 「・・・。」 どうか、彼の傍に。 けれど、錯覚だったのだと、 思い知らされたのは、もう少しあと。 |