片翼





 初めては、この身を潤してくれた。
 二度目は、ただ、覚えていてくれたことが嬉しかった。









「・・・。」
 ちゃんといかせろよ。男はもちろん女だって経験無いんだから。
 そして、これきりだ、と、冗談めかして言った。


 ――・・二度目は違って聞こえて、

 これきりだと、だから言ったのに、と、責めた。











 勇吹は、東の部屋に入ると、そのまま戸にもたれた。
 あとでね、って言ってやった言葉。
 カルノは来てくれるだろうか。


 初めては、マンハッタンの経済研究所で、
 二度目は、戦争前夜。


 勇吹は部屋の半分を占領するダブルベットに上り、窓から外を覗く。
 街の明かりは少し遠く、よく星が見えた。
 この部屋は、好きな部屋だった。
 いい部屋だと思う。
 窓に鍵を掛けカーテンを閉めた。カゴから真っ白なシーツを取り、ベットに掛ける。
 ノブが引かれる音がした。



 耳を塞がれ、目も塞がれた。
 戦争の鬨の声を聞かせないように。

 これきりだと、だから言ったのに。






 傍に寄ってきて、頬を寄せてくる。
 カルノの肩に両腕を掛けて勇吹は仰のいた。
 キスの続きをする。


「好きだよ。勇吹。」
「初めて知ったかも。」
「・・・・コラ。」
「・・・ホントだよ。」
 切なさを飲み干してきた。



 もう、何も言わなかった。ただカルノの言葉でこの身を浸す。
                                飛べなくとも                                   
 求めず過ごそうとして、たとえ自由でなくとも、それを安穏と思っていた。
 けれど求められてこの身はこんなにも彼を受けいれて、悦ぶ。
           かつ                     
 どれだけ飢えていたか今知る。
 勇吹は少し身を強張らせながらも抗わなかった。
 ベットにその身を横たえて、衣服を剥いで至る所にキスを落とす。屹立しないそれも触らせてくれた。愛撫が、行為が許されていく。
 思ったよりも肩幅のある・・けれど腰は細く、その身がしなやかに思えるのは民族としての肌のキメが細かいせいだ。
「・・。」
 伝う指先に促されて、秘部は開いていた。
「ああ・・っ・・・・―――。」
 汲み上がる悦を勇吹は止めなかった。
 背をしならせて喘ぐ。
 狭く濡れていて、
「・・んっ・・―――ああっ・・・・んっ・・。」
 ぐっと指先を押し込んだ。
「う・・んっ。」
 がくんと勇吹の身体がギアをいれるように大きく揺れた。
 手が伸ばされて俺の肩の服をつかむ。
 腰を揺らした。
 内側の肉が指を締めつけていく。
「は・・あ・・。」
 収束してゆく衝撃に吐息を漏らした。
「・・・。」
 まだ少し固く、強張っていた。
 カルノは指先で秘部の浅い場所を撫でた。
「あ・・。」
 勇吹は目を見開いた。
 赤い前髪から除く目がついと細められる。
 小さな満ち引きを繰り返した。
「・・え・・、あ・・。」
 ぞくりと背筋の悪寒が悦に変えられる。
「あ・・ああ――−。」
 掌に蜜が滴り落ちて行く。
 溢れて、
 欲しくてたまらなくなる。







 欲しくて、
「・・・か・・るの。」
 引っ張られて、熱い息と言葉で耳元で勇吹が囁く。
「入れて。」
 両腕が伸ばされて首に絡んだ。
「ああ。」
 そっと唇を重ねて、その求めに応じる。舌を絡め深く口に含んで甘くくちづける。
 かちゃ・・とベルトを緩める小さな音が耳に届いた。
 眼の端にそれが映る。
「・・・。」
 腰に腕がまわされて、背を枕に預ける。少し起こされる格好になった。
 勇吹は四肢を折った。
 降ろされたファスナーからすくい出されたそれが内腿に触れてくる。衝撃に耐えようとして勇吹は顔を背けた。
「・・・。」
 屈み込んでその頬にキスしながら、カルノは彼の両脚を開いた。
 秘部の入口にあてがう。
 熱く濡れて、飲み込もうと開いていて、
 カルノは一気に突き上げた。
「ああっ。」
 下肢が衝撃で跳ねる。
 その腰をカルノは無理から押しさえこんだ。
 いっそうの声を勇吹はあげた。
「あああっ・・――――、やっ・・ああっ・・――。」
 股から伝わってくるこの身を分ける快感が、勇吹を貫く。
 背を引きつらせ仰いだ。
「ああ・・ん・・っ・・ん――っ。」
「・・・は・・あっ。」
 勇吹にきつく締め上げられていく感覚に、カルノも息を吐く。
 良すぎて、どうにかなりそうだった。
「ああぁ・・・―――。」
 なまめかしい反応・・・・、艶のある声。
 無理もない。
 劣情を抑えてきた、欲しい相手との交接だ。
「・・・・つっ。」
 カルノはゆっくりと腰を動かした。
「あ・・・っ。」
 揺さぶられていく。
「あっ・・・あっ・・・。」
 カルノが入りこんでくる。
 奥の・・自分も知らないところに熱が及ぶ感触に喘ぐ。
「あ・・・待っ・・てっ。」
「無理。」
「・・耐え・・・られっ・・ない。」
「耐えて。」
「・・・・・カル・・ノっ。」
 最奥に触れては引いていく。
 手放しそうになる意識の中で、低い声は身体を震撼させて、性感だけが覚醒させられている気がした。
 ・・呼んで、
「勇吹。」
 勇吹は両手を伸ばす。
「好きだよ。勇吹。」
 カルノが傍にいる。
 両頬に触れて引き寄せて、自らも仰のいた。
 キスを交わす。
「あ・・・っ。」
 白濁した流れが下肢から伝わった。



 カルノの落ちていく身体を抱き締めて、勇吹は片翼を手に入れる。







 それは、一人で眠る夜の終わり。