焦土






 小型ジェットで護送され、途中、水爆の爆心地を旋回して、マンハッタンに降りた。
 そこにはたくさんの被爆者たちが運ばれていた。
「・・・・・。」
 敷島勇吹を連行する大国の要人は、これ見よがしに見せる。
 けれど、勇吹は目の当たりにしても、なんの感慨もなさげだった。
 ・・・原爆の投下は、戦争を終わらせるための正しい行為と、言った国だ。

 だが、さあ直せ、命をリセットしろ、と、
 言われて、直さない理由はそこにはない。
 そこにあると言われるだろうが。

 自分が持って生まれた能力をどう使うかを決めるのは自分だ。
 そう、この力は自分が生きる為だけに使う。
 人に頼まれて使うつもりは無い。
 それがこの能力と付き合って決めたことなのだ。
 そして、それが一番いいのだと。



 通された部屋は、要人の知人の病室だった。
 包帯とガーゼに巻かれたその人は、苦悶していた。
「さあ、直せ。」
「・・・・しません。」
「出来ないのか?。」
「さあ?。その噂をご存知で。」
「・・・・・いいから助けろ。」
「お断りします。」
 勇吹は無表情に応答するだけだ。
 要人は焦れた。
「さもなくば。」
「やってみなよ。」
 勇吹は不遜に眼差しを閃かせて、要人に笑った。
「今、貴方が生きれなくなるよ。」
「私を殺すというのか。」
「・・・・結果、そういうことになります。」
 笑みを納めて、勇吹はただ患者を眺めた。
「おまえは、神か。・・それとも神の子か。それとも天使か、悪魔か。」
「いいえ。そのどれでもありません。」
「・・・。」
 たった今、地球を滅ぼすと言った口で、呟く。
「俺は、無力な人間です。」
 だから、
 被爆者は、まもなく絶命した。




 勇吹が、最初に放り込まれたのは、臨時の大統領府が置かれたホテルだ。
 待遇は悪くない。
 もし、神の子だったら、という仮定を捨て切れないためだ。
 「もし」が本当なら無碍に扱えない、そんな怖れからの保身だ。
 断罪されても助けるという幇助の精神など微塵に無い。
 そこで、数日間を過ごした。
 幾人かの要人に会い、尋問を受けつづけた。

 隕石を落とした力とはどういうものか、
 人王とは。

「俺にもよくわかりません。」

 聖職者が口々に言う清らかな気を持つ者という根拠は、
 人を生きかえらせるというのは事実か。

「どれも本当です。」

 そう、勇吹は繰り返した。
 流され、肯定されてしまうと、心理学者もお手上げだった。
 要人は嘆いた。
「我らを・・救ってはくれないのか?。」
「何を期待しているのですか?。」
「この今の困難を排除して、そして永久の地を与えてくれるんじゃなかったのか。」
「言っていて、おこがましくないですか?。」
 勇吹は不遜に笑う。
「もし俺が救世主だったとして、これまでされた仕打ちに、貴方達を助けるなんて、思うんだ。」
「人の愚かさを許容してこそ、救世主だ。」
「・・・かもしれませんね。」
 そんな都合のいい人間がどこにいる。
 沈黙のあと、やおら勇吹は、無慈悲に呟いた。
「Do not Cling to me」
 そんなものにすがって生きるなと。




 再びだ。
 救世主と呼ばれた者は、人々に無尽蔵の幸せを、再び、与えなかった。