All or





 傷ついた勇吹は拘置所からホテルに移っていた。
 薄暮の中にちらちらと街灯が目立ち始める。
 広場に設けられた台が眼下に映った。
 先進国に有り得ない見せしめのための処刑台。
 そこに集まる群衆。
 この国がいかに混乱し疲弊しているかうかがいしれた。
 もうすぐ広場に身柄を移される予定だった。
 処刑は明日の朝。


「(カルノが来る・・・。)」
 ホテルの一室で、勇吹は傷ついた身体を起こした。
 会いたい。
「・・・。」
 この情欲を抱えたまま、神に犯されるのも悪くなかった。
 感じない痛みだけの陵辱に耐えて、彼への思いの証になるならば。




 勇吹が作り上げた時空の迷路を、レヴィの誘導と力に頼り、且つ撃退も仲間たちに任せ、自らの力を出来るだけ温存して潜る。
「・・・・。」
 奇妙な違和感を覚えた。
 そして次の瞬間、目の前に勇吹が現れた。
 失敗だ・・・とカルノは心の中で自らを毒づいた。
 勇吹は微笑っていた。
 足は動かない。魔法は効力を失っていく。


「カルノ。」
 勇吹は目を細めて笑う。
 幾重にも張り巡らせた結界を、少し緩めて辿りつかせたのは、俺。
 会いたかったから。


 愛してる。
 愛してる。

 誰を・・・カルノを。

 だから俺は、おまえの全てになりたい。
 だけど、なれないから、全てnotingだ。
 俺は神様の物で、
 君は、俺の知らない誰かの人。
 わかりきっている答えに、告白する気にもなれなかった。


「あの時、君は俺を殺して良かったんだ。」
「・・・おまえが俺を放っておかなかったくせに。」
 言い返しても勇吹は懐かしそうに笑うだけだった。
「俺が神様のところに行けば、全部。終わる。もう誰も死なない。」
「終わら・・・。」
 術封じをほどこす。
「ほら、これが神様の力。」
 一番危険な存在をがんじがらめに封印する。そしてそれが彼を守る。



 勇吹は抱き締めた。
 最期に会えた・・・。

「生きろっ。」
「・・・・っ。」
 勇吹ははっと顔を上げた。
 生きたい。
 その今更的な感情を。



 死を望む観衆の声がきこえた。