三人の給仕は一本一本、髪を結い上げていく。長さは腰ぐらいまでになった。
 既に衣装が設えられ、化粧をされた。
 2人の給仕はその作業を終え、髪を結わく1人を手伝い始めたらしい。
 最後に、その髪に櫛で梳った。
「・・・。」
 1人が勇吹の体を支え、1人がその面を起こしやった。
 艶かしさを湛えた姿に女達は、少し息を飲んだらしかった。
 ひそひそと何か言い合う。
 そして、恐る恐る震える手で髪を劉海儿に結い上げ髪飾りを施し、鳳冠を被せた。
 青ざめて、逃げるように三人の給仕は部屋から出た。



 衣装の裾が石の床に落ちる。
 部屋を分ける仕切りにまで施された美しい透かし彫りは赤銅に磨かれて、中にいる者を飾る。
 身じろぐも、香のせいでもう起きあがれなかった。衣装も髪飾りも重かった。
 薄く開いた目から見える景色は、朦朧とした意識ではよく見えなくて。
 指先がかじかんでいた・・それを温めるところがないほど体温が下がっていた。
「・・・。」
 衝立が除けられた。二人の男が入ってくる。
 三日月目と、一番最初に四つ目の額に浮かんだつり目だ。
 彼らはほうと感歎の息を吐いた。
「これは艶容な・・。」
 水袖など衣装は肌の露出しない長めの物を頼んだが、それだけに美しく、女にしか見えなかった。
「・・・・。・・っ。」
 三日月目に腕を掴まれ起こされる。
「っ。」
 口を開けさせられ、粉を飲ませられる。苦かった。
 眩暈。手を離されて、勇吹は石の床に倒れ伏した。
「これほど練れるとはな。」
 つり目は部屋に満ちた濃密な陰の気に感心した。
 これまでに選んだ少女達など大海の一滴にも満たないかもしれない。
 三日月目はその身を抱き起こして、寝台に押し付ける。
「こら貴様。」
 つり目は言うが、止める気も無いようだった。
「からかうだけですよ。」
 体温が下がり、肌は乾燥しつつある。これも薬効だ。
 熱が帯びるのは、人の陽が触れたときだけ。
「・・・。」
 その瞳が潤むのを眺めるため、額の髪を退けた。
「そろそろ薬が効いてきてるでしょう?。・・。」
「・・・・。」
「・・陽の身が欲しくなってませんか。」
 例えば、ほらと、その唇に中指を指し入れる。
 道教の方術の一つ。
 体内で陰陽のニ気を練り、還精補脳をもって大要とする養生法、不老長寿の効果を期待する。
 が、男女陰陽の交接の術という性質をもち、のち俗化淫猥化した。
 中国語で何を言われているかわからなかった。
 ただ、自分の中で何かが疼くのを感じた。
 軽くその指先を舐める。
 三日月目はほくそえんだ。
「・・っ!?。」
 がしかし、刹那真っ青になった。
 歯にかかるのもかまわずに指を引き抜き、勇吹を突き飛ばした。
「噛まれたのかい?。」
 選者のくせに何も気づかなかったからつり目はせせ笑った。
「・・・・。いや、なんでも・・。」
 が、食われるかと思った。が、それが何故かわからなかったから言いようが無かった。
「・・・執務に戻ります。」
 寝台の両脇から手錠を引きずり出した。
 長い袖を手繰り、手首を掴まれて掛けられる。
「・・。」
 その音が生々しく響いてこの耳に残った。