本物か神霊眼か




 土曜日だからか先々週の日曜に比べて随分人がいた。
 剣道部もそのようで、総勢が集まってるのか20人ほどが稽古の準備をしていた。
 先々週と違い、女の子も5人いた。
「市倉君、いますか?。」
 天武館の窓を叩く。近くにいた人が振り向いた。ネームには風間とあった。
「和樹?。んあ、おまえ、この間、体育館来た奴だろ。」
「・・・そんなに目立ちましたかね。」
 風間・・・そう言えば和樹達が先々週なんか言ってたな。
 こんにちわー、と先々週に一緒に稽古した一年が礼儀正しく挨拶をよこしてくる。
「なんだ?。知ってるのか?。」
「この間来たんですよ。」
「?、何年?。」
「1年じゃないですよ。」
「3年でもないぞ。」
 それより、そろそろ和樹を呼んでほしいのだが。
「じゃ、2年か。和樹っ。おい、呼んでる奴がいるぞ。」
 部室の前に立って、しまってる戸を竹刀でバンバン叩く。
「げ。」
「げ、とはなんだ・・、あ、もしかしてこの間って、先々週の日曜の奴か。おまえらがこぞって俺に黙ってる奴か。」
 言うが早いが、風間は踵を返した。。
「先輩っ。タ・・タンマッ。」
 和樹は履きかけた袴の裾を踏んで、つんのめり風間を追えない。
 勇吹は吹き出して笑ってしまう。
 風間は靴を脱いでいる勇吹に声をかけた。
「またやってってくれないか?。」
「部長さんがよければいいですよ。」
「俺が部長だ。じゃあ問題無いな。」
 言っているうちに、和樹がくる。
「義経〜。よりによって部長に声かけるなよ〜。」
 おまえは俺のエモノなんだーっ、と腐った。
「義経って言うのか?。」
「はまってるでしょ。でも俺が勝手につけたあだ名ですよ。」
「?。」
「久しぶり、和樹。悪いけど手拭いまた借りるから。」
「おう。おまえ、大丈夫なのか?。付き合って。」
「結構ヒマ人だから大丈夫だよ。」
「んじゃ癪だけど、部長に付きやってくれな。おもしろいぜ。」
 スポーツバックから、袴と胴着を貸してくれる。はなっからさせるつもりだったのだろう、洗濯されていた。
 サンキュと受け取って、部室を借りることにした。
「市倉君、今の誰?。ねえ。」
 クラスメイトが聞いてくる。
「内緒。」
 言うと、なにそれーっと文句の声が上がった。
 他の女子部員も熱い視線を向けている。
「義経みたいのがいたら女子がもっと入るんだろうなぁ。」
「男だってほっとかんだろ、あれは。」
 副部長のぼやきに、部長も同感のようだった。




 結局、基礎練をこなし、掛稽古を3分を10セットした。掛稽古なら部員全員と総当りすることができると、和樹が提案したのだ。
 そのあと、風間と手合わせをした。
 大柄の割に軽い身のこなしでよく動く剣道だった。フェイントも多い。
 なにより驚いたのは、これだけ動いた後の間合いの詰め方の速さだ。
 おかげで、ストレート負けした。
 着替えながら、勇吹は少々、ふくれっつらである。
「絶対、あれ、一緒に稽古してたら、慣れると思う。」
「負けおしみは、カッコ悪いぜ。」
 ロッカーの上の和樹に笑われる。
「ホント、あそこまで完膚なきまでに叩きのめされると目が覚めるよ。」
 汗を拭いてTシャツを被った。
 さてと、とあまり思い出したくないけれど、本業にかかろうと思う。
「和樹、猿は動かしていいって?。」
「ああ、問題無し。」
「OK。じゃあ、あとは祭りだけだね。」
「どんなふうにやるんだ?。」
「普通の地鎮祭だよ。神主の衣装着て、祝詞上げて、神様を案内するだけ。」
「普通ってことは無さそうだけどなぁ。」
 言われて、勇吹はふふっと笑った。
「あんまり目にすることないだろうから、見にくる?。」
「そうだな。」
「よかったら、部員達も。」
「?。」
「仲間にいれてくれたから、そのお礼。珍しいもの見せるよ。」
「・・・ほうら・・、普通じゃねーじゃねーか。」
 和樹がぼやいたあと、バンバンと竹刀で戸を叩かれた。
 風間だ。
「おら、早く出て来い。女か。おまえら。」
 勇吹はしょうがないなぁと部室から出る。
「作戦会議ですよ。」
「俺を倒すか?。」
「なんかそれ、非常に腹が立つんですけど。」
 次があればいいのに、とすごく思う。
 風間は笑って、パックのオレンジジュースを投げてよこす。
「奢りだ。また来いよ。」
「はい。」
 勇吹は肩をすくめ、靴を履いた。
「義経。今日なんかしてくんだろ。」
「うん。和沙さん、来ないけどどこにいるの?。危ないから来てほしくないんだけど。もちろん君も。」
「姉貴なら、補修受けてるぜ。教室で。」
「何組?。」
「3−E。」
「わかった。忠告しに寄るよ。」
 勇吹は一礼して天武館を出た。



 校庭から聞こえてくる音が放課後の教室に響く。
 1階は3年の後半のクラスの教室があるようだった。
 3−Eの前までくる。
 和沙が一人いた。
 からから、とドアをスライドさせて中に入る。
「あ、義経。剣道終ったの?。」
「うん。姿見えないから、どうしたかと思ってた。」
「これ終わらないと開放してもらえないの。」
「補修だって聞いたけど。」
「和樹め。そーう。英語。」
 まだ日の入りまでには少し時間がある。勇吹は隣の席の椅子を引いて座った。
「わからなかったら教えるけど。」
「全部よう。」
「・・解けてますよ。頑張ってください。」
 そう言って、机に肘をついた。
 和沙はむうっとむくれて、カチカチとシャープペンをノックする。
 問題に向かうが『義経』が隣にいては出来るわけもなく、・・・やめて、同じように肘をついた。
「・・・・私ね、前シテをやるんだけどね。」
「うん?。」
「源義経のこと、どうして静御前は好きだったんだろ。」
「?。」
「私は源義経ってあんまり好きになれない登場人物なのよね。」
「・・『静』できないじゃないですか。それじゃ。」
「そうなのよ。」
 ちょっと口をとがらす。
「公家の口上に乗っちゃうような人なんだもん。」
「うーん。否めないかな。」
 兄弟を戦わせて一方が破滅する、源頼朝と源義経も歴史の一例に漏れない。
 義経は公家に取りこまれて、頼朝を討伐しようとし、失敗した。
 あるいは、義経の人気に頼朝が策を労し、討伐の口実を作り義経を陥れたとも言う。
 どちらにしろ、源義経が公家や頼朝に翻弄されたのにはかわりない。
 和沙はくすっと笑った。そっと顔を傾け勇吹を見る。
 髪が肩から胸へと落ちる。
 そんな仕草を眺めていた。
「・・義経のことは好きよ。」
「・・。」
 驚いて顔を上げる。和沙は笑顔になって、「よかったちゃんと言えた」と呟いた。
「・・・。」
 嬉しくて・・・でも切なくて、眩しかった。
「ごめんなさい。」
「いいよ。わかるもの。あなたは今、それどころじゃない。」
 でも感触、悪くないでしょ、と言う。
「・・うん。・・。」
「・・・義経?。」
「・・。」
 そおっと、手を伸ばして、和沙を引き寄せて抱きしめてみる。
 彼女も『誰か』ではないけれど、
「・・義経!?。」
 この身を預けやる。
 女の子の温もりってこんな感じなんだ、って思う。


 普通の高校生やってたら、こんなこともあったのかな。


 その時、ばたっと、廊下のロッカーが開いて箒が倒れた。
 勇吹は驚いて振り返った。
「・・・・。」
 赤い髪が眼の端に移る。
 口元は笑っていた。



 自販機にきて、コインを入れる。
 横から、スッと腕が伸びて、なんかわからない飲み物のところを押された。
 カルノは後ろからきた奴を睨みつける。
 それでも和樹は、平然としていた。
「おまえ、最低な奴だな。」
 二人の姿が中庭から見えた。・・自分は黙って回れ右した矢先だった。
「そのくらいわかってるさ。」
「そりゃまた、せちがらい関係で。」
 和樹は鼻先で笑った。自販機から野菜ジュースを取った。ぽんと放る。
 受け取って、カルノは呟いた。
「イブキは、このくらいじゃ怒んねーよ。」
「あっそ。いい気なもんだよな。」
「・・・。」
 言葉を返しておいて、和樹は考え込む。『しゃべることを考える脳味噌』と『思考を巡らす脳味噌』は血筋上別にあり、特技だ。
「(・・・イブキか、・・どっかで聞いたような。)」
 最近の命名は読めないけったいなものが増えてきてはいるが、同年代ではまだまだ珍しい方の名前だろう。
「カルノ。」
 後ろから声と足音がした。勇吹だ。
「なーに出歯ガメしてるんだよ。てゆーか、あとつけてきて、もう。」
「毛色が違うから、お仲間だと思ったぜ。やっぱ仲間?。」
 和樹がカルノを指差した。
「そうだよ。喧嘩売った?。」
 カルノが不機嫌なのを見て取って尋ねる。
「売ったった。しばらく口聞いてくれそうにねー。」
「あのね。」
「姉貴は?。よくよく考えたら、忠告くらいで、諌められる姉貴じゃないと思ってさ。俺が重石にならなきゃなってな。邪魔はしないぜ。」
「うん。補修の解答もらいに職員室に行ったよ。」
「サンキュ。」
 和樹は別棟への廊下を走っていった。
 カルノに向き直った。
「これから、用事を済ませるけど、くる?。」
 人差し指を上に向け、階上を指した。
 カルノは顔をしかめる。
「・・・。屋上?。」
「そう。」
 嫌なら来なくていいよ、とそっけなく勇吹は言って、階段の方へと歩き出した。



 屋上の祠の前に立ち、勇吹は霊的なものを見る眼を開いた。
 祠には悪霊が一匹、また一匹とするりするりと入っていくのが見える。
 住みついた悪霊達はまるで蜂の幼虫のようで、うじうじと蠢いていた。
 時機に蛹になり、成虫になるのだろう。
「・・・・辞別けては、産土大神、神集巖退妖の神々、この霊縛神法を助けたまえ。」
 勇吹はあちらに引き際を問うつもりはないらしかった。
 言霊の縄が祠に結ばれていく。
「縛々々律令。」
 幼虫達をしばりあげた。
 勇吹は近づいて、その結び目を掴んだ。
 相変わらず洒落にならないことを洒落にしやがると思う。カルノは眺めながら顔をしかめた。
 彼は北東の方角を向いた。
「さてと。」
 それはすぐだった。鬼門の扉が突風をともなって開かれた。
「――っ。」
 前回とは違い、触手は弾かれるように飛び出してきた。
 勇吹は幼虫達をかざす。
 鬼門のつたのような触手は伸びて、その幼虫達を絡めとった。
「(盾にすんのかよっ。)・・・っ!?。」
 金切り声が上がった。
 カルノは勇吹を振りかえった。勇吹は経過を伺いながら鬼門を見つめていた。
「ずいぶん荒っぽいんだな。」
 悪霊同志共食いさせるなんて思わなかった。
 勇吹は振り返りもせずに、答える。
「そう?。出来る奴がしのごを挟んでいたら、その分危険が高まると思うけど?。」
 思わず仏頂面になった。まるで、ハイマンの言い草ようだったからだ。
 けれど次の言葉に、カルノは顔を上げた。
「後味の悪さは引き受けるほかないよ。」
「・・・。」
 勇吹は、猿を置く予定の屋根に上がり、用意してきた札を貼り付けた。
「北の竜神のおわす、場を、乱すなかれ。」
 効果を発揮し、鬼門が収縮していく。
「・・・かしこみかしこみ。」
 勇吹は手を合わせた。
 その時、ビインッと空気が震えるような音がした。
「・・・っ。」
 振り向く、・・もうそこまで触手が伸びていた。
 苦し紛れの鬼門の攻撃だった。
「イブキっ・・・・・。」
 エーテルの翼をカルノは広げ飛んだ。念動力で触手をはたき落とす。
 強力な魔の出現に鬼門もひるんだ。
 屋根に降りて、勇吹を翼のうちに隠す。
 そうこうしているうちも、お札の効力はじわじわと鬼門を蝕み続けていた。
 巣食っていた幼虫のものだろうか。悲鳴がもう一度上がった。
 鬼門は閉じられた。
 カルノは、安堵も混じった溜息をついた。勇吹を振り向く。
「・・・?。」
「・・・。」
 笑って、いつものようにできなかった。勇吹はカルノをほとんど嫉妬じみた感情で、見上げた。
「・・・。」
 自分の身も満足に守れない。抱きしめるあの温もりを守る資格など、やはりないのだと、思い知らされる。
 パキッと、乾いた音が響く。カルノが翼を閉じる音だ。勇吹はハッと我に返った。
 手を伸ばし、カルノの背に触れて、神霊眼を使う。
 エーテルが粒子に変わり、背中にしまう時の痛みを和らげられる。
「・・・ごめん。」
 これじゃ、八つ当たりだ。
 勇吹は踵を返して、屋根から降りた。
「これでおしまいだから、行こうか、映画。」
 勇吹は、気を取りなおすようにして、自分の焦燥を口にはしなかった。
                          ウソ
 目じりを拭う。時々、この涙が、本物か神霊眼かわからなくなる。
「・・・。」
 階段室に入る背中にカルノは尋ねる。
「なあ、楽しいの?。ここに足繁く通ってるみたいだけど。」
 勇吹は立ち止まった。少しの間のあと、答える。
「楽しくなかったら、来てないよ。」
 学校なんて、小さなものかもしれない。
 それが世界だった自分もちっぽけだったと思う。
 勇吹は階段室の天井に触れた。
「こんなのは『きっかけ』で、『ついで』に過ぎない。」
 けれど、楽しかったんだ。
 それだけの世界でもよかったんだ。
 それを真っ向から否定したのはレヴィであり、背を向けたのは自分だった。
「・・・・あと一回だ。それで終わり。終わりにするよ。」
 言い聞かせるように呟いて振り向いて、全ての思いを押し込んだ。
 カルノは眼を細めた。
「イブキは、ああいう、『綺麗な』、女がいいわけ?。」
「・・・。」
「・・・!っ。」
 ゴウンッと、左耳元で鉄の扉が大きく唸った。
 勇吹が右掌を衝立たのだ。
 カルノは扉に追い詰められるような形になった。
「俺、男だけど?。綺麗な人がいいに決まってるだろ。」
 答えた台詞があまりにも滑稽で、勇吹は笑った。
「・・・。」
 怒らないと思っていた。けど、怒るのか?。
 ・・。・・知らないだけか?、俺が。
「・・・・。なに怒ってんだよ。」
「怒ってないよ。」
「じゃあ、何があった?。」
「レヴィさんに聞けば?。」
「っ・・。」
 言葉を選べば、ここまで憎たらしい奴になるのかと思った。
 勇吹は衝立る腕を下ろす。
「ほっとけよ。一昨日だって昨日だってほっといてくれただろ。」
「あれは・・・・っ。」
 呟いて、口篭もった。
 どう説明しろと言うのだ。大体、レヴィもナギも言わなかったのか?。
「なんだよ。」
「・・・。」
「ほら、黙る・・・・いいよ、別に。」
 勇吹は溜息をついた。
「・・悪い。今日、映画見る気になれない。」
 おまえと一緒にいる気になれない。
 そう言われたようなものだった。
「・・・。」
 突き放して階段へと踵を返し、勇吹はカルノと別れた。



「レヴィっ。」
 ばったんとマンションのドアが閉じる音も待たずに、カルノが叫んだ。
 リビングに通じるドアを開けて、更に奥のレヴィの部屋を開ける。
 デスクに向かっていたレヴィは、ドアの方を振り向いた。
「てめぇ、イブキになに言いやがったんだよ。」
「・・・・。おかえりって言いたいところなんだけど。」
「そんなのはいいんだよ。イブキだよ。あいつになにがあったんだよっ。おまえに聞けって言うから、おまえが話せばわかることなんだろ。」
 喧嘩腰でも話しかけてくれるのは嬉しい気がした。
 何があったのか知らないが、きっかけを与えてくれた勇吹に感謝すらしてしまう。
「そうだよ。・・・はい。」
「・・・なんだよ、これ。」
 一枚のファックス用紙を手渡される。
 見てみると、地図・・・?、いや、屋敷内の見取り図だった。
 レヴィは話し始める
「イブキ自身にね、なにかあるわけじゃないんだ。」
「・・・・。」
「一昨日中国に行って、この前君達が会った四つ目はね、イブキに変わるものを探しているのだとわかってね。」
 変わるもの・・・すぐに腑に落ちた。
 あの『綺麗な』気配を思い出す。
「・・・・あのガキとか。」
「そう、女の子ばっかりね。」
「イブキの変わりになれる奴なんているわけねぇじゃねーか。」
「そうだね。だから大勢集めているのさ。・・・なにかを呼び出すためか、なにかを養うためか、どちらにしろ、イブキは俺のところに来ちゃったわけだから、もう手に入らない。代用でもなんでも用意しなければならない状態なのさ。」
 大勢か・・・、勇吹はそれを気にしていたのだ。
 つかまった奴らがどうなるかなんて、わからないから尚更。
 自分に振りかかれば、こんなにも勇吹は恐れないだろう。
「それで、ずっとイライラしてたのかよ。」
「たぶん、君の前だけでね。」
「・・・。」
「映画は見に行けたの?。」
「うっせーな。」
「あーあ。そんなふうにイブキを怒らせたのは、たぶん君のせいだよ。なにを言ったんだか知らないけど。」
「・・・・。」
「思い当たる?。ちゃんと謝ることだね。」
「・・・・。」
 カルノは黙って、話しを戻した。
「・・・手に入らない、かよ。守れる自信あるの?。」
「あるよ。傍にいればね。」
「今、いねぇじゃねーかよ。」
「大丈夫だよ。君が掛けていってくれたペンダグラムを後生大事に持っているから。」
「・・・・。」
「あと、その見取り図を見ておいて。なにか変なところがあったら教えてくれないか?。」
 カルノはぺラッとファックスを指先に挟ん視線をやった。
「やっこさんの、屋敷だよ。」



 雨が降ってきた。どうも昨日から天気が良くなかった。
 閉まってしまった本屋の軒先で、空を見上げる。
 電話一本いれて、傘を持ってきてもらうことにした。
 しばらくして、ナギがやってきた。
「てっきり、彼女のところにいくのかと思ったぞ。」
「どうしてですか?。」
 あのあと職員室に行って、終ったからと伝えて、和沙が人の修行場をなくしちゃったわけ?、というような内容の文句を一通り聞いて、学校を後にした。
 一緒に帰って、デートにしてしまうのは簡単だったが、彼女に悪すぎた。
 ごめんなさいを言っておいて。
「守れもしないのに、すがるだけなんてカッコ悪いじゃないですか。」
「ま、おまえは、まだ、若いからな。」
 ナギは穏やかに笑った。