レヴィが勇吹に用とあってやってきた。
 カルノは部屋を出てダイニングに戻った。
「・・・・コーヒーは?。」
「おまえは3時間も前のコーヒーを飲むつもりなのか。」
 ナギのあきれた声が返ってきた。とうに流してカップも綺麗に洗ってあるという具合だ。
 それでも彼女は、昼食の食後用に作っておいたカフェオレを、軽く小鍋で暖めて、カップに入れてくれる。
「おまえのそういうところ、イブキが真似するんだよな。」
 カップを受け取ってぼそりと呟く。ナギは少しきょとんとして、・・思い当たって苦笑いした。
「・・・かもな。あいつは、こういうのが好いらしい。」



 レヴィは持ってきた小包をカルノの机の上に置いた。
 魔法に関する話をするのだろうと踏んでカルノはさっさと出て行ってしまった。
「さっそくだけど、南守和沙さんのことなんだけど。」
 レヴィからその名前が出てくるのに勇吹は少し驚いた。
「調べてたら、四つ目がらみの神女の一人になっているってわかってね。」
「え・・。」
「先にお願いするけど、先走らないように。いたずらに教えても怖がらせるだけだ。もっと詳しいことがわかるまで、何も行動を起こさないでほしい。」
 わかりましたとは答えずに、勇吹は尋ねる。
「・・・・日本にまたがって、事が起きているんですか?。」
「うん・・、その辺はまだよくわからない。取りあえず、これ、見てくれるかな。今、届いたのだけれど。」
 封切られた包から、コルク栓のついた試験管を取り出した。
 中に入っているのは白い粉だった。
 すぐに思い立った。
「これ・・。まさか、あの薬ですか?。」
「そう。」
 小包の配送票を見てみる。何の変哲も無い猫便にすぎない。
「え・・と、なんていうか、仙薬って聞いたけど、こんな簡単に手に入っちゃうものなんですか?。」
「うーん。実はこれ、日本の企業が工業用に開発した固定剤だったんだよね。」
 レヴィは腕を組んで机にもたれ、添えられてあったパンフレットを掲げる。
「は?。セメントとか固める奴ですか?。」
「そう。実用化に至らなくて、お蔵入りしていたんだが、中国の商社が買いつけてその分だけ生産されるようになったらしいよ。それで俺も問い合わせして、サンプルをもらったんだ。簡単だったよ。」
 実在する普通の企業だ。営業の人があっさりサンプル送りますよと、こちらの住所を聞いて、猫便で発送してくれたらしい。
「・・・。」
 唖然と勇吹は言葉もない。
 普段から、得体の知れないものに囲まれているということだ。
「ま、用途以外の使い方まで開発者や商社は責任持たないから、アプローチして生産を止めるように言うのは無理だろうと思っている。」
「まさか、お香にしてるなんて思ってもないでしょうしね。」
「燃やしても普通の人なら無味無臭だしね。」
「レヴィさんも、カルノも平気なんでしょ?。」
「そうだね。得にカルノは陽の塊みたいなものだからね。」
 それを聞いて、勇吹は複雑な表情になる。
 ナギから伺っていたのでレヴィは苦笑いする。
「仙人というのはね、不老不死に加えて、飛べること、姿を消せること、彼らが去ったあとに喩えようもない芳香が残るもの、と永く伝えられてきた。この薬はそういったものを反映して使われているのだと思うのだけど。」
 試験管を勇吹の目の前に掲げた。
「だからといって、君が仙人だということじゃない。君の器はその手の試験薬ならなんでも反応してくれるだろうさ。陰を試す薬ならこれ、逆に陽の気を試す薬があるのならそれもひっかかるさ。」
「・・・・。」
 レヴィは試験管を片した。
 そして、もう一度念を押す。
「とにかく先走らないで、和沙さんに振りかかる危険は君よりは少ないから。」
「・・はい。」
「ペンダグラム持ってるよね。」
「はい。」
 その時、お昼だよーと、ナギがダイニングから呼んだ。
 レヴィは今行く、と言って部屋を出た。
 勇吹は本やレポートをひとまとめにする。トンと机の上で一辺を揃えて、はっとする。
 和沙のことで、思い当たることがあった。
 カルノが、昨日・・。
「・・・それでか。」

 「 ああいう『綺麗な』女が、いいわけ?。 」

「・・・・。」
 彼が言い当てたのは、そう言うことだったのだ。
 そして、穢れなき人、は、カルノから遠い代物だ。
 俺はたぶんそれも問われたのだろう。
「(『いいに決まっている』と答えた。)」
 よく考えもしないで答えた自分にがっかりする。
 部屋を出て、壊れたドアは元に戻っていて勇吹は自分の部屋に戻った。