警鐘




 レヴィは、溜息をついてぱさっと、自室の机に四つ目の資料を放った。
 彼の名前は、龍雷。生まれは、アメリカの西海岸のチャイニーズタウンとあった。
 軍に志願し、スパイなど頭脳向きなことから、破壊工作など技術と体力が必要なことまで、幅広くこなし、優秀な戦歴を持つ。
「・・・。」
 歳は56。
「(そういや・・、30後半って、イブキ、言ってたな。若く見えるのかな。)」
 どちらにしても、歩兵をやる年齢ではない。
「Commando。」
 司令官はCommander、Commandoは特殊部隊を指す。
 ゲリラをそう呼ぶこともあるが、彼の場合は、『指揮される者』ぐらいで訳した方が妥当だろう。
 催眠によって脳に”指令”を書きこまれた経緯を持っていた。
 コマンドを打つと、その内容の通りに実行する、目的遂行型兵器。
 レヴィは目を細めた。
 どうやって道士たちがその彼を手に入れられたかは、わからない。
 が、おそらくとり憑かれ癖を見抜いた道士が、(だからこそ催眠をかけられもするのだろうが、)乗り移って転移の術で移動させたのだろう。
 その時、コンコンとノックが鳴った。
「レヴィ。」
 神妙な顔でナギが自分の名前を呼んだ。
「ん、なに?。」
「かなり薄いが・・、薬の芳香がするのだが。」
「え・・・。」
 レヴィは、ぎくりとした。席を立ってベランダに出る。
 香り・・・。
「・・香りは遠すぎてわからないけれど。」
 綺麗な気配が、霊や精霊たちを包んでいた。
 包み抱いて、気流になって、風になる。
 そして、山を尾根を越えていく。
 そんな事が出来るのは・・、霊たちの中心にいるのは、
 間違いなく勇吹に違いなかった。




 こんなふうにローゼリットは心配かけさせなかった。
「くそっ・・・。」
 茂みを分け入って坂をずんずん降りる。向こうの通りは祭り一色でテキヤが並んでいて明るい。
 カルノは疼く胸騒ぎを押さえ込むように胸元で拳を握り締めた。
 理性と建前、想い、欲求が、交錯する。
「・・・・。」
 ああも無頓着で、
 鈍くて、
 スキだらけで、
「(この上、寄りついてもいいだと。)」
 こっちの身がもたない。
 あの薬は強力なのだ。
 そう自分は、レヴィが言うように光ならば、つまり陽であるということで、要はしんどいということになる。
「・・・。」
 自分に光だとか理性と言うものがあるのを、迷惑というか嫌というほど認識させられた。
 今直も、たくさんの欲求の声が、ありとあらゆる言葉を使って、その理性を揺さぶってくる。
 前の時・・レヴィの部屋で吸いこんでマンションから出た時と同じだ。あの時は消えるまで1日かかった。
 立ち止まって、ガツッと、街路樹に拳を打ちつけた。
「(男となんか冗談じゃねぇ。)」
 それが普通だ、普通の理性。

 アイツモカナ、アイツモダヨ、
 えーてるノ目ヲ・・・狙ッテイルンダヨ

「うるせぇっ。あっちいけっ。」
 傍で囁く自分と同じような者達を怒鳴りつけた。
「(・・・守ってらんねーよ。)」
 そもそも守る必要なんかない。頼まれてもいない。あいつはそんなの頼まない。意外とプライド高いから・・・・。
「・・・・。」
 ローゼリットは心配じゃなかった。彼女は強かったから。
 けれど勇吹は、ローゼリットとは違ったもっと別の力を持っていて、それは誰かに狙われやすいもので。
 守ろうと思うのは、
 身を守る術を知っていた彼女だって殺されてしまったから?。
 それとも、勇吹の傍には、俺が必要だって思うから?。
「 (イブキをローゼリットと同列に扱えるか・・っ。)」
 でも、それは胸騒ぎの理由にはならない。