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アニバーサリー
3.春の朝





 春の朝。
 地球上で最初に日が昇るこの国のこの季節の朝は4時には既に明るくなる。
 レースカーテンの向こうには黒ではない静かな闇が落ちている。
 ヒイロは起き上がると、シャワーを浴びにいく。
 通り抜けた部屋ではまだリリーナが眠っていた。
 シャワールームの前のクローゼットには適当な服が入っていて、適当につかむ。
 着の身着のまま寝たので、それは脱いでクリーニングということになる。
 使い勝手など、どこもこんなものだ。
 ヒイロはシャワーをひねる。朝だというのに熱すぎるくらいのお湯が出る。
 相変わらずの行水でヒイロはシャワールームから出た。




 リリーナは水道のコックの音が伝わって目を覚ました。
 そろりと起き上がる。
「・・・。」
 窓の外の明るさに、明け方だと思った。
 ヒイロの朝はいつも早い。
 リリーナはベットからおりる。
 一度自室に向かうのだ。
 廊下に出る戸を開ける。
 夜の続きの静かな空気が絨毯に落ちていた。
 そっと戸を閉め、自室に戻る。
 通路の外は次第にほの明るくなっていく。
 自室の戸を開けて入る。
 戸の近くの姿見を見れば顔色はよく、レストルームで顔を洗えばなおすっきりする。
 髪を整え、ギャザーの肩紐のワンピースに着替える。色はアカシア。
 普段もう少し淡い色か、黒紺グレイになるため、あまり着ない色だ。
 今日は5月を思わせるほど暖かくなるらしいので、白の長袖のカーディガンで済ます。
 デスクの上を覗いてみると、綺麗なもので、リリーナは苦笑する。
 昨日のうちにガードの二人がいくつかの書類を片付けてくれたようだった。
 優秀な二人に感謝する。どうしても今日はプライベートでいたい。
 明日の誕生日をプライベートに過ごすことはどうしても出来ないから。
 リリーナは引き出しから一通のカードを取った。
 くるりと踵を返す。ヒイロのいる部屋に戻るのだ。



 

 白のカッターシャツに、ブラウンのループタイ。スクエアの金の台の七宝ピンは青と白で、するりと紐に通された。
 長椅子の前で襟を整えているヒイロに遭遇して、リリーナは戸口付近で立ち止まる。
 心臓がことんと揺れてしまう。
 いつまでも見ていたい、彼の横顔。彼の仕草。
 憧れる人は少なくないはずで。
 自分はそのうちでしかなくて。
 ヒイロがこちらを向いたのでリリーナは気を取り直して部屋に入る。
「早いのね。」
「・・・・寝てればいいだろう。」
「女の子より先に起きるあなたが早いんです。」
 リリーナはくすりと微笑んだ。やおら肩を竦める。
「春の朝は明るいから早く目が覚めるの。」
「・・・・。」
「穏やかで、静かで、ほっとします。」
「・・・・。神がいないからな」
「・・・。」
「God's in his heaven」
 ヒイロが問うように答えを口にする。
 リリーナも一節を応える。
「蝸牛 棘に這う・・・。」
 その詩は今この時そのもののようだ。
 手元の手紙を両手に持ちながら、リリーナは目を伏せる。
 何者にも監視されていない私の休日。
 それでは背徳もかまわないのだと、ふと微笑する。
 リリーナは、ヒイロの前に立って、はい、とカードを差し出た。
 とたんヒイロは気のない振りをする。
 そして胸のポケットに指先をいれて、三通の手紙をトランプのカードのように見せる。
「まだおまえからもらっていない。」
 人の悪い笑みでリリーナに応える。
「・・。」
 むか。
 リリーナは静かに激高し、手元の手紙を自ら破く。
 もうと、ね目上げる。
 朝から人をからかえるほど、よく目が覚めているものだ。
「来て下さいね。」
 リリーナにしては、一段声が低い。
「わかった。」
 ヒイロは取り澄まして答える。
 思った通りのリアクションが返ってくるのが心地いい。
 すねた顔でリリーナはヒイロの手元を覗き込む。
「もう・・・。誰からもらったんですか?。」
「おまえの母親と、パーガンと、料理長。」
 リリーナはヒイロから受け取る。
 料理長が渡すのはなんとなくだがわかる。前の帰宅で嬉しそうに言われた。
 食への興味も現れて、良い傾向です云々。確かに彼の名を料理長から聞いている。
「・・・。みんな抜け目ないんだから。」
 リリーナはその美しい顔で膨れっ面になる。
「おまえの親だ。当然だろう。」
 ヒイロはにべもない。





 
 ヒイロがバルコニーへ出て庭に行くから、ついていった。
 まだ薄暗い。
 3年前の朝には何を考えていたの?、と心にかすめる。
「・・・。」
 聞くことはしない。
 知りたいけれど、それを尋ねることはその時安穏としていた自分には少し恐縮するものがあった。
 それに、その背中はいつものようになにも求めず訴えてもいなかった。
 しばらくいくと土の道があらわれて、向かっている先がわかった。
 聖ガブリエル学園の厩舎が見える。
「?。」
 リリーナは首を傾げながらついていく。
 ヒイロは何も言わないで厩舎の戸を引き開けた。
「・・・・。」
 カツカツッと蹄の音がした。
 蹄の鳴らした馬がいた。
 それは呼んでいるように思えた。
 リリーナはヒイロを見る。
「・・。」
 ヒイロは近寄っていく。
 蹄を慣らしたその白い馬の額にそっと手をのばす。
 馬の方もその首を下げてその手に撫でられる。
「賢いな。」
「・・。」
 リリーナは立ち止まって見ている。
 馬が屈むので、ヒイロはその額に自身の額を当てた。
「また乗せてもらうぞ。」
 すっと離れる。
 また、とは以前に乗ったのだ。
「・・・。」
 たぶん3年前。
 聖ガブリエルの友人が見ている。
 馬はよく調教されているのか3年ぶりの再会にも落ち着いていた。ヒイロが馬具を取っているのを眺めていた。
「・・・。」
 いやでも、入ってすぐに主張した。
 馬の気質を見るように乗馬の授業では習ったが。
 私乗せてもらえるかしらとリリーナは肩を竦めて、馬に手綱をつけるヒイロに尋ねる。
「馬は好き?。」
「嫌いではない。賢いからな。」
 ヒイロは好きと言う言葉をあまり使わない。自身を語るときは特に。
 それは相手の負担にならないようにするためだ。
 それから思いを返してもらえないときに傷つきたくないという現われでもある。
「おまえは?。」
「好きよ。もちろん。」
 そんな、あなたも。

 

 ヒイロは手際よく鞍もつけた。
 何をするのもかろやかで。
 そんなふうなのを眺めていると人の気配がした。
 厩舎の管理者だ。
 リリーナの姿を認めて目を見張っている。
「おはようございます。ミスター。」
「いえ。あのこのようなご連絡は?。」
「夜でしたから。今日になるかもしれません。」
 リリーナはしれっと呟く。
 そこに馬がヒイロに連れらて出てくる。
「・・・・その馬は・・。」
 そう訝る。
「何か?・・。」
「・・その、乗り手を選びます。乗り手が馬の扱い方を知らないと歩きません。」
「そうですか。」
「歩かないだけだ。落とされるよりマシだろう。」
 ぼそっとした呟きが馬の向こうからした。
 そして鞍にあっという間に飛び乗ると、「リリーナ」と呼び寄せて、その体を片腕だけで馬上まで引き上げる。
「9時には戻る。」
 声が降ってくる。
 そして馬上の主は手綱を取って、馬に出発を知らせる。
 白馬は一つ嘶くと、軽やかに走り出した。




 遠駆けをした。
 リリーナを乗せてヒイロの白馬が駆けていく。
 それなりの速さで駆けているはずなのだが、馬が一定の調子で走ることにためらいが無かった。
 こうして横乗りしたままなのに落ちる気がしない。
 距離にして10キロほど。
 馬ならそのくらい軽く走れる。
 春ただ中のすそ野を駆けていく。
 山の向こうに日が昇っているのか、稜線が明るく光る。
 冬の枯れ木の間を木漏れ日が踊っていた。
 山の桜、山のツツジが咲いていた。景色が駆けていく。
「・・・。」
 木立の中を抜けた。開けた湿地があった。
 ヒイロは馬を減速させた。馬の足がぬかるみにはまらないように、一度止める。
 少し向こうに池がうっそうとした茂みの中にあった。ヒイロは馬を操って湿地を迂回する。
 地面の固い場所に来ると馬を再度止めた。
 リリーナは辺りを見回した。
 馬でくるような場所だ。さすがに人の気配がしない。
 ヒイロは馬を降りた。
 リリーナは更にぐるりと見回していた。
「・・・。ここは爆撃湖?。」
 言いながら声は小さい
「だろうな。地下水路まで抉って、水が溜まったんだろう。」
「・・・。」
 こんなに穏やかなのは、どこか戦後のコロニーのようだった。
 日のあたる場所にはタンポポが所狭しと咲いていた。
 リリーナは降りようとして、ヒイロに腰を支えられて降ろされてしまう。こうまで軽々とされてしまうと自分はまだまだ子供のようだった。
 固い地面は池の傍まで続いていて、その傍に立つ。
 耳をすましても川の音はしなかった。
「川は無いのかしら。」
「・・。」
 ヒイロは指差した。
「湿地になっていて、緩やかなだけだ。もう少し向こうで沢になっている。」
 流れ入る川も本当に小さな沢なのだろう。
 水は澄んで湧き水の池だった。
 ヒイロは前屈みになり、池の水を片手ですくって一口飲んでいる。
「さすがだな。」
「?。」
「ここの水は、飲みやすい。」
「・・そうね。」
 リリーナもそっとすくって飲んでみる。リリーナには飲みなれた味だった。
 馬も勝手に歩いて水を飲んでいる。
 風の音もしない。聞こえてくるのは鳥の声だけ。
 日が昇り、その陽射とは反対側の稜線は真っ青一色だった。
 リリーナは座り込んでタンポポをいくつか取る。
 それを編んで輪にしていく。
「コロニーの女の子はする?。」
「花がここまで育っているのを見たことが無い。」
 数字的な返事である。
 数の問題ではない。シンプルにすればデイジーの花10本あれば出来る。
「するか、しないか、よ。」
「・・・俺が知るか。」
「・・・・。」
 確かにあんまり知っていても困るが。
 リリーナは固くしっかり編み上げる。久しぶりに編み上げた輪っかを腕に引っ掛けようとする。
 が、
 ヒイロがひょいと手首から奪って、リリーナの頭に乗せる。
 そしてそのまま、タンポポのティアラになる。
 ちょうどいい、とヒイロはそのままリリーナの真横に寝転がる。
 そう、なにもかもちょうどいい。彼女は黄色い服を着ていて、そして正真正銘プリンセスで。
 その髪は日の光のようで。
 そんなふうに思いながらリリーナが真っ赤になっているのは気づかないふりをする。
 彼女の髪が腕をくすぐるのは、兆しで、
 やおらそろりと、彼女が顔を覗き込んでくる。
 青空に、彼女の髪と服が生える。
 陽射しそのもののような彼女に腕を伸ばし、その髪に指先を入れる。
 草と土と花のにおいがした。
 髪をひと撫でして満足して、手を離しヒイロはまた寝転んだ。
「・・・。」
 知らない言いながら、造作も無く女の子の扱いが出来るのである。
 これは非常に困る。
 リリーナは両手で頬肘を両膝につきながら深々とため息をつくのだった。
 爆撃湖の水面は穏やかで、空の青を映す。
 蝸牛茨這う、ブラウニングの春の朝そのものだった。











 厩舎に管理人が目を向ける。
 朝、大統領が乗っていかれた白馬が戻ってきたからだ。
 青年は軽やかに降りる。彼女もひらりと降りようとするも、途中で防がれて腰と腕をつかまれてゆっくり着地させられていた。
 白馬は彼に引かれて、厩舎の外にある蹄洗場にいく。大統領もついていく。
 あまりにもあからさまな事態の状況に、ある種恐々としたものを感じていて、憶測を流しカメラ取りをすれば、更にそれを下手にすればそのあとがどう逆さに振っても恐ろしい。
 管理人は胸の内にとどめておくことにして通常通りの業務をこなす。
 ヒイロは手綱を引っ掛けて、馬を留まらせる。
 備え付けのブラシで良さそうなものを探す。
 リリーナは馬の額に触れる。
 滑らかな毛の感触が手に戻ってくる。
「この複雑な気持ちあなたにならわかって?。彼を見せびらかしたいのもあるのよ。でも同じくらい秘密にしておきたいの。」
 そう言うと、馬がうなづくように屈むから、先ほどヒイロがやっていたように馬の額に自分の額を合わせる。
「ふふっ。同志ね。」
 そこで同調し合っている二人を無視して、鞍を外しヒイロは馬にブラシをかける。
 慌ただしさとは無縁の朝の蹄洗場だ。
 けれどマスコミだけでなく好奇心のあるものがいないとは言えない。
 そのまま伏し目がちにリリーナは尋ねる。
「いいの?。」
「何かする方が不自然だ。実際誰もいない。」
「そう。」
「騒ぎはおまえ以上にごめんだ。」
「・・・・そう。」
 騒ぎの元凶なので何も言い返すことは無い。
 リリーナはヒイロの隣にくる。
「私にもやらせて。」
「・・・。」
 ヒイロはブラシを手渡す。
 リリーナはヒイロがやっていたように胴にブラッシングする。
 ヒイロは馬の周りを回って、蹄の具合を確認している。
 問題無さそうでヒイロはリリーナと反対側の胴をぽんぽんと叩いた。
 嫌いではないと言いながら、彼は他者にとって必要な分だけ優しい。
 それは限りなく彼が優しいということではないだろうか。


 





 来た道を歩いて戻る。ヒイロは午後は羽田港に行くそうで、ただ食事だけはするとのことだった。
 こんなふうに一緒に歩いてもいいのかしらと思いながら、いつあきらかになってもかまわないとも思う。
 でもやはり彼を秘密にしておきたい心情も強い。
 午後10時になって、ドーリアンの屋敷に戻った。例のごとく裏庭から入ってテラスから自室の戸を開ける。
 開けるも、閉めた。
 ヒイロが向こうエントランスで足を止めたのがわかった。自分を訝ってだ。
「・・・・。」
 正直くるとは思っていた。
 ただ予想以上に部屋にある。
 リリーナは自室前で立ち往生する。
 ヒイロに見せたくない代物である。ヒイロは興味ないだろうけれど、その興味なさがありありと想像出来て、それがカンに触るから見せたくないのだ。
「・・・。」
 ヒイロは腰に手を当てて、ため息をつく。
 今更、動揺することでもないだろう、と思う。
 社交辞令的を装って、来ているのだろう。いくらでも。
 無理も無い。
 4年の任期を終えれば、リリーナもただの女だ。それも子供ではなくいい加減大人になっている。
 今のうちからアプローチをしているのだ。
「・・・。」
 かなり、どうでもいいが。
 ヒイロは向かおうとしていたドーリアンの自室ではなく一度リリーナに足を向ける。
 リリーナの肘の腕を取った。
 そして引っ張ってつれていく。自分が案内されたドーリアンの自室に。
 リリーナが苦笑した。
「・・・・困りました。」
「そうだな。」
「この場合、返事は。」
「そんなものしなくていい。無くてもしつこい風土だろう。」
「・・・・・いつの時代の話ですか。」
 古代の史実などもはやお伽話である。
 リリーナはヒイロに引かれるまま古書の部屋に行く。
 中に入ってほっとしている自分がいる。我知らずため息をついて、ヒイロがこちらを向くから再び苦笑を返した。
「・・・。」
 ヒイロは部屋の長椅子に戻り、その背にかけていたジャケットを取る。
 ポケットからキーホルダーをつかむ。
「リリーナ。」
 そして差し出した。
 リリーナは目を丸くする。
 手を差し出すとぽんと乗せられた。
 小さなメモリーだ。
 集音と再生が出来る。
「・・・・・。」
 リリーナは凝視した。思い当たることがありそうで、・・・そして前にも同じことがあったと思う。
 そしてそれはノインに渡した。
 リリーナは目を見張る。顔を上げてヒイロを見る。
 ヒイロは否定しない。
「・・・。」
 自室に送られてきた物など本当に些細な物に思えるほど、この再生機に驚愕する。
 リリーナは口を引き結んで、うつむいた。
「・・・。」
 聞くのが怖い。
 思い出される記憶。
 迎賓館で、ブレーメンのロームフェラ財団本部で、リーブラに向かうシャトルで、・・・リーブラで。
「・・・。」
 また思ってもいない真実を私に口にさせることになるのではないのかと思われた。
 リリーナはこそっと尋ねる。
「・・・・・声は何を?。」
「俺は聞いていない。」
「・・・。」
 それはつまり真に私宛ということだ。
「・・・・。」
 リリーナがうつむいている。
 あいつとの会話にろくな物が無いからだろう。
 それはあいつが悪いのであって、俺には正直どうでもいい。
 ただこれを運搬した理由は一つだ。
 この兄妹がこれからもおそらく歴史の指導者であるということだ。
 今は妹は地球だが、その後の火星の話だ。
 二大巨頭体制がおそらく出来る。
 それが友好的な物ならいいが、この二人の場合兄妹愛どころか会話が存在しないため、対立する図式がありうる。
 むしろその方向が強すぎる。
「・・・。」
 ミリアルドピースクラフトは死んだことになっている。
 お笑いぐさだ。
 生きているくせに。
 生きているなら本人がなんと言おうと当てにするのが弱い人間だ。
 あいつの周りに人は集まる。
 コミュニティは必要だ。
 そこでミリアルドピースクラフトが生き返るには、リリーナの反乱が必要で。
 そうミリアルドピースクラフトが生き返る余地があるのだ。
 考えながらそのシナリオにだんだん腹が立ってきて、ヒイロは腕組みをした。
 リリーナが傍にくる。
 肩に額をつけてくる。それは先月亡国と同じように。
 リリーナがスイッチを押した。
 再生には時間がかかる。
「・・・。」
 たまには怖じ気づけと言ってくれた。だから肩を借りる。このくらいの我がままは許してもらおう。
 ヒイロは腕を組んだままだが動かないで聞いてくれている。


  HappyBirthday リリーナ

  戦争のあとをおまえの肩に乗せてしまったことに、
  心残りはある。

  だだそれはこの胸に収めておく。

  今は、誕生日おめでとう。
 
  リリーナ。おまえが生まれた日に父が。
  一つになったおまえに母が。
  どれほど喜んだことを、いつか話せるといい。
 

  火星にいつかくるといい。
  おまえと私は、そこでなら妹と兄でいられるだろう。

 


 もう一度HappyBirthdayと呟いて、音声は切れた。
 ヒイロもリリーナも黙っていた。
 火星でなら・・というのだ。
 コミュニティの中で、それは最も望むところだ。
 二大巨頭などではなく、おそらくそれがあいつの夢なのだろう。
 リリーナがぽつりと呟いた。
「これ。私が持っていても・・いいのかしら?。」
「当然だ。おまえ宛のおまえのためのメッセージだ。」
「・・・・。はい。」
 肩の服が濡れるを感じた。
 ヒイロは腕を解いて、リリーナを胸に入れる。
 もう一度再生させながら、メモリを握りしめる。
 失ったものを兄は知っているのだ。
 その憎しみと怖さを私は知らない。
 妹なのに。
 そうだ、知ることが出来るだろう。火星でなら。
 愛されていたことも知ることが出来るのだろう。
 リリーナが顔を上げた。涙を手で拭う。
「・・・・。あの、ヒイロ。これ・・・・母に聞かせても」
「だからおまえのだ。好きにしたらいい。」
「ありがとう。ヒイロ。」
 リリーナは笑った。晴れやかに。
 そして回れ右し、走っていく。
 戸を開けて夫人のいる部屋へ向かっていく。
 ヒイロは我知らず息を吐いていた。
「・・・。」
 認めたくはないが中に入っている音声に緊張していたのは自分も同じだ。
 ミリアルドピースクラフトの言動はいちいち真逆で、腹が立つ。
「・・・・。」
 普通の兄妹をやっていれば、二大巨頭などにならないのだ。
 だがそんな時間が無い。今も無い。
 メールすら無い。本当に徹底している。
 ただあいつは俺が言いたいことを言わないでいることを嫌うことを知っている。
 だから俺がアプローチした。
 きっと応答があると思った。そして着ていた。
「・・・・。」
 ヒイロはもう一度ため息をつき、この部屋で待つことにしてやおら本棚に向かう。
 パーガンが入ってくる。
「おかえりなさいませ。」
 うやうやしい言葉と態度で、今日のテーブルセッティングもここにすると伝えてくる。
 慇懃さは何度かクレームを付けたが、あらためる気はないらしい。
 テーブルは別にかまわない。リリーナの部屋はそれどころではないからだろう。
「・・・・。」
 まあ、とりあえず、ちょうどいい。リリーナが出て行ったので、自分とパーガンだけだ。昨日はセキュリティがいた。使用人も複数いた。
 ヒイロはまた一つ手紙をポケットから出す。
「ミスターパーガン。」
「?・・・・・はい。」
 呼ばれて振り向くパーガンにヒイロは手紙を差し出した。
「・・・・。」
 宛名はパーガンへのものだ。
「これもだが、リリーナが持っていったものは・・・おまえ達家族が聞きたいとずっと思ってきた相手からの音声メッセージだ。聞いてきたらいい。」
「・・・・。」
 パーガンが瞠目して、・・そっと受け取る。
 ヒイロはまた腕を組んだ。
「用意できたのは偶然だ。出来たから用意した」
 素っ気なく言う。
 パーガンはおもむろに開く。懐かしい字に指で触れる。
 間違いなくプリンスのものだ。
 そして緊張も、その内容に解けていく。
 微笑し、もう一度字に触れ呟いた。
「・・・・・さすがですね。あの方とコンタクトが取れるというのは。」
「偶然だ。」
「そうですか・・。」
 それでもすばらしいことだ。当家には。
 パーガンはあらためて手紙に視線を落とし目を細める。
 自分にこれが来たということは、サンクキングダムの生き残りであるドーリアン夫人にはもちろん渡されているのだろう。先日重ねて彼を丁重に扱うように指示も受けた。
 ヒイロは面白くもなさそうにぼそりと呟く。
「色々と気を使いすぎる奴だ。」
 だからこそ得られる信頼だろうが、自分には理解出来ない。
 パーガンが苦笑した。
「・・・それはあなたもですよ。」
 律儀に宛名通りに運ぶ彼は誠実である。






[11/4/9]
池の水。
私は飲んだことあります。
湧き水の池の水。
川の水も飲んだことあります。
秩父と南アルプスの水はおいしいv

ちなみに北アルプスはおなか壊しました・・・。
おおこれが水が合わないという奴かと思いました。
外国では水は用心するし辛い料理食べても下らないお腹ですが・・・。北アではやられました。

あと詩もタイトルも海潮音・・。

たんぽぽのティアラ。
元ネタ、なかよし連載。あの話そういやどうなったのだろう・・。あのタイトルとあの表紙が好きでツボだった。




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