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Holy Day
3.2日-day







 ヒイロが住むコロニーはBエリアに属する。デュオはヒイロの住むBエリアからCエリアに列車のような箱型のシャトルで移動した。
 磁気と識別信号でピストン輸送され、双方のターミナルで収納を繰り返す。
 L1コロニーBエリアはそのL1ではその建造が古い方だ。
 Cエリアは最も新しく高性能のため連合兵士たちファミリーの居住区として使われていた。そのためかBエリアは生粋のL1っ子たちが住むコロニーと言えた。
 L1っ子と言えば有能集団で有名である。
 ヒイロはその上でかなり特殊だが。
「・・・・。」
 ヒルデと会ったのはここBエリアだ。
 学生上がりだが、志願すれば軍にすぐさま徴用される実力がある。
 情報収集能力に優れているのは基本だ。
 輸送艇やらリーオーやらあれもこれも乗りこなせるのは上等で。
 その上でヒルデには行動力があった。一本気で時に短絡的なほどの。
 デュオは箱型のシャトルから見える宇宙空間を見ながら思う。
「変わってないな。」
 苦笑する。
 ヒイロから伝えられたヒルデの近況は想像以上に堪えた。ヒイロから聞いたというのも相当なプレッシャーになっている。
 ヒルデはこの2年で福祉活動に携わっていると言う。
 あのヒイロまで巻き込んで。
「・・・・俺は何をしてきたんだろうな。」
 苦笑を自嘲に変えて、呟いた。
 少なくとも執着することだけはいつもどおり避けた。
 戦争中だろうと戦後だろうと、死を平等に訪れさせる死神の自分の宿命のようなものだ。
 デュオは目を伏せた。


 だけど、ただ一度描いたのだ。
 1年半前のMO2で。
 未来を、描いた。

 宇宙に、
 一緒に。

「・・・なんで一人で帰るんだよ。」
 同じ言葉をMO2で呟いたように思う。

 Say GoodBye Duo

 失うのではなく。
 生きていれば会える、というものとは別だった。







 自分が睡眠をとっている間にヒイロはありえそうな芸術家を何人かピックアップして家庭事情を調べ上げていた。
 朝10時に目を覚ました自分を、更に一発殴り起こし、且つ、書類の束を頭から降らせ、且つ、後でここに来いと、隣の居住コロニーCエリア茶店を指定して、後は任せたといわんばかりに自分はさっさと学校に行った。
「・・なんか機嫌悪いな。」
 物騒な奴ではあるが、あの場面で銃をぶっ放された。しかもそれが冗談ということで、それは奴の機嫌が相当斜めであるように思えた。
 癇に障るようなことをされたが、正直した覚えはない。
「あんまり来るなというところかな。」
 ガンダムのパロット同士、会えばろくな事にならない。
 ならばさっさとかたをつけてやるしかないなと思った。
 背後のビル群を振り返る。
 新聞会社をたきつけて、細月グループ資本・傘下クレッセント社は防衛と言う名の銃の個人需要販売戦略を練っているのは間違いなさそうだった。
 兵器ではなく、自己防衛のための銃需要である。だがそれはそののちの相互不信から生じた兵器再生産へとつながるだろう。
 もしかしなくてもそれも見越しているだろう。細月グループは兵器産業では新参でほとんど需要がある前に戦争が終わった。
 ロームフェラ傘下の古参の兵器製造会社は矢面に立ったため解体されてしまったが、細月グループのように会社母体は兵器産業ではない会社は当然多く残されている。
 細月グループはその需要のうまみだけは覚えているのだろう。どうにかして戦争をもう一度起こしたいようだ。
 今なら新参企業でも認められる。戦争が終わった直後と言うこともある。細月グループなら今しかチャンスがないと言うところだ。
 デュオは目を細めた。
 当然つぶしてやる。
「・・・・。」
 ただ、本体があれだけ大企業なのに対し、あてにされている芸術家は、どうも名を馳せていない小芸術家らしい。
 ヒイロから渡された情報も膨大すぎて逆に困った。
「情報あんまり取れなかったな。あーなんか調子わりー。」
 新聞会社とのつながりはだいぶ個人名を含めて知ることが出来たのに、が、その小芸術家は相当トップシークレットらしい。
 今日得た情報を元に、もう少し絞り込むことが出来るだろうから、どこかの大型の本格的な端末を使いクレッセント社を探らないといけない。
 ヒイロは大学に行っているはずだ。とすれば何か調べてくれているかもしれない。
「・・・。」
 とゆうか間違いなくしてくるだろう。公然と、このL1で最も優れた端末を有するKIOで。
 裏を取った自分の情報とヒイロの情報を元にすれば、今後自分達は十二分な動きが出来るだろう。
 デュオは言われた喫茶店に入った。
 ヒイロ来てっかな。
 Bからだからまだか。
「・・・。」
 そして、・・どきりとした。
「(やられた。)
 放課後か学生がいる。ざわざわきゃあきゃあとうるさい。
 その中にヒルデが混ざっていた。
 団円の中で唯一立って活動報告をしているロンゲの男の話に耳を傾けている。
「(店を変えるべきかかえざるべきか・・。)」
 デュオはシェークスピアの気持ちになっていた。
 ヒイロの携帯番知ってるしなー。ヒイロ知っててここを指定したのか?
 昨日の予定表にはない。
 凄絶な笑みと共にハメラレタ、と思う。デュオはウェイトレスが来る前に店を出ようとする。
 逃げも隠れもするのは自分の十八番だ。
 ―――――なんで一人で帰るんだよ。
 感情的で恨みがましく男らしくない言葉だ。
 デュオは踏みとどまる。
 そうだ。別に俺が逃げる理由なんかない。
 ウェイトレスが来て、デュオに通常の応対をする。
「 二人だけどどこ座ってもいいのか?あ、俺、フレッシュのオレンジジュースね。」
 いつもどおり言葉をつづり、だが、やはり逃げたくなっている。
 なんでだ
 あっちがこっちに気づいて逃げるならわかるが。
「・・・。」
 あいつが俺に気づいて逃げ出すのを見るのが怖いのか。
「・・・・。」
 失って亡くしてはいない。
 それはいつものように手放しで喜ぶべきことのはずなのに、胸の奥が凝っていく。
 デュオはカウンター近くの奥の4人がけに一人で座る。
 飲み物はすぐに運ばれてきてその場で勘定も済ました。
 頬肘をつき、ストローでオレンジジュースを混ぜながら、ヒルデを眺めやった。
 彼女が立ち上がった。レポート用意片手に話し始める。
 話題は次のL2でのことだった。
 L1はあのロンゲが中心に残りをやるようで、ヒルデは今後の自分の活動の仕方について説明していた。
 一通り説明が終わり、ヒルデは着席して、その後は意見交換になる。
 が、ヒルデがこちらを向いた。
 目が合った。
「どうしたの。ヒルデ」
「だれか、知っている人でもいるの?。」
 尋ねられながら、目を見張るヒルデを、デュオは頬肘をついたまま斜に眺める。
「・・。」
 ヒルデは困ったような顔をしながら、はにかんだ。
「・・え。」
 デュオは予想外の表情に、意表を突かれた。頬肘が外れる。
 予想していた表情、
  冗談めかして嬉しそうに笑う。
  真っ青になって逃げる。
  なんでもなかった振りをする。
  無視する。
「ごめん、ちょっと行ってくる。」
 と、ヒルデは周囲に声をかけて立ち上がった。
「いいよーおかまいなく。あとで紹介してねー。」
 メンバーに手を振ってこちらに来た。
「・・・・。」
 何でそんな困ったような顔になるんだよ。
 それになんか嬉そーに。

 失って亡くしていないのだから、手放しで喜ぶところなのだ。
 なのに、出来ない。
 一人で帰ったくせに、と、感情的になる。
 恨みがましい自分を目の当たりにさせられる。

 やめろよな。


 デュオはヒルデのように立ち上がれなかった。
「久しぶり。」
 ヒルデは変わらなくて、記憶の通りの声と話し方だ。
 俺は出来なかった。
 ストローをかじりながら剣呑に顔を上げて、テーブルサイドのヒルデを見上げた。
「ヒイロともそんなふうにしゃべってんのか?」
「?。うん。まあ」
 ヒルデはなんでそこにヒイロの名前が出るの?と言わんばかりに不思議そうに首を傾げた。
「今の俺や、あいつの仕事のことは?。」
「聞いているよ。」
 なんでもないことのように言う。
 今まで俺はわざわざ避けていたのに・・これでは何の意味ないだろう。
 間抜けな話だ。
 デュオは立ち上がった。
「じゃあ。それ相応の覚悟はあるわけだ。」
 どうしても声音が感情的になる。押さえられない。
「・・・。」
 ヒルデの横を通り過ぎる。
 ぐいっとつかまれた。
「・・・馬鹿にしないでよ。そんなの、軍人になったときからしてるわよ。」
「・・・。」
 背後の声に、本当に変わっていない、と、デュオは心臓を掴まれた気持ちになる。
 一生懸命、感情を押さえ込む。。
 笑う振りだけなら、いくらでも出来る。
「そんじゃあ、今晩。カルボナーラでも食べにいこうかな。」
「・・・・。」
 その笑顔が淋しくてヒルデは目を細めた。









 喫茶店からすぐだという。
「おまえ、Bエリアに住んでるんじゃないのか?。」
「5月までよ。今、福祉活動のメインをこっちにしているの。学校行くために週一はBに行くけど。」
「連合二世か?。」
「うん、よく知ってるね。それ。」
 ヒルデは肩を竦めた。
 Cエリアは連合の居住区だった。そのため地球の兵士とコロニー居住者とのハーフが少なくない。
 しかも連合の兵士が死亡又は帰郷したため、片親もしくは孤児になるなどと取り巻く状況は芳しくない。
「差別とか格差とかそういう固定観念が、戦争が終わった後の社会現象になる前に出来るだけなくしておきたいの。」
「・・・・。」
 その発想に目を見張る。
 その行動は今確かに「この時」にこそ必要で。
「何?。綺麗ごとなのはわかってるわよ。」
「感心してるんだ。落とすなよ。」
「はは。ごめん。でもそれならありがとう。・・・あ、ついたわよ。」
 ヒルデが鍵を振る。
「は?。戸建て?。」
「地球に帰った家族の別荘よ。ハウスキーパー兼ねてるの。結構評判いいのよ。私のハウスキーパー力。」
「知ってるけどよ。」
「家賃はタダな上にハウスキーパー代も、もらえるわけ。いいでしょ。」
「・・・・・。おまえの親、何してんの?。」
「ベータで真面目に公務員やってるわよ。」
「おまえが軍に入るのは?。」
「大賛成で。で、こうして福祉活動してるのも大賛成。」
 ヒルデの金銭感覚の疑問を親に投げかけたデュオだが、ヒルデは親の期待に最大限応えつつ逆手に取っているようだった。
 部屋に入ると間取りは別荘と言うだけあって広い。
 ダイニングキッチン、に、洋間。客間、二階の部屋。
 庭に、車。
 ここは靴のまま上がる家だった。
 ヒルデはダイニングに行って冷蔵庫を開ける。
「パスタも作れるけど、ハンバーグ作ろうか?。」
「・・・・・両方。」
「じゃあホワイトソースがけにするね。」
 オムライスもおまけにしようかなと思いながら、ヒルデは腕まくりする。
「コーヒー、紅茶、ミルク、何にする?。」
「・・・コーヒー。」
 コーヒーしか頼まない自分にくそと思う。
 いつもどおりの答えでもヒルデはお構い無しで、手際よくコーヒーを煎れる。
「・・・・・。」
 デュオはダイニングに座った。背もたれにもたれる。
 上等だと知っていたはずなのに、こうしてあらためて目の当たりにさせられる。
 再認識させられて、客観的にどう見てもヒルデといる方が物事が片付いていく気がした。
 その背を眺める。
 背は少しだけ伸びたようだ。自分がそれなりにでかくなったのであまり変わらない気もするが。
 ただ少年ぽかった輪郭はなりをひそめて、女の柔らかい後姿のそれだった。
「・・・・。」
 そんなことに思考を逸らすのは、心の真ん中にある思いから逃げるため。
 思うことすら俺には出来ない。
 シスターと同じように死なせてしまうかもしれないから。
 傍にいられない。
「ヒルデ。二つだけ聞きたいことがある。」
「・・・・なに?。」
 マグカップいれてコーヒーを持ってくる。
「なんで何も知らせないで帰ったことと。」
 デュオはヒルデと目を合わせなかった。
「それなのに、今かかわってここにいること。」
 ことんとカップが置かれた。
「俺といると危険なのはもう知ってるだろ。」
 ヒルデを見上げる。
 ヒルデは勝気で一本気な眼差しで俺を見下ろして微笑んだ。
「一つ目は、デュオがこれからする選択の妨げにならないために」
「・・・。」
「デュオがこういう道に進むのはなんとなくわかっていたから。もしジャンク屋の時みたいな生活に戻ってもきっと続かないって。」
 ヒルデはキッチンの前に戻る。自分の分のコーヒーを注ぐ。
「でも少なくとも考えてしまうでしょう?。そんなことで悩んで欲しくなかったの」
 コーヒーを一口飲んで肩を竦める。
「まあ、私もやること見つけられたしね」
「おいこら。」
 自分から離れた後は、好き勝手にやらせてもらっていますと言う風だ。
 デュオはコーヒーに口をつける。
 コーヒーの香りも味も濃さも十分だった。正直ヒイロのよりおいしい。
「それで二つ目の方。あなたというより、同じL1だしヒイロとかかわっていると言った方がいいのかな。今は。」
 ドキリとする。
「簡単に言っちゃうとね。殺されても、人質になってもどうでもいいの」
 恐ろしいことをいいながら、ヒルデは微笑みを絶やさない。
 恐ろしい目に会いながら笑顔を絶やさなかった神父やシスターに重なる。
「デュオの足を引っ張るくらいなら。もしそうなったら気にしないで任務を実行して。まあ余裕があったら助けてよ」
「なめるなよ。余裕なんていつでもあらぁ」
 7歳のあの時とは違う。
「そっか。」
 ヒルデは苦笑に変えた。
「そうね。曲がりなりにも神様、だもんね。」
「神様じゃねえよ。」
「だから曲りなりって言ったでしょ。」
 そうして後ろをを向いてキッチンに向かった。




 ヒルデの作った料理は文句なしにおいしく、3時間ほどいて、夕刻になったから暇にさせてもらう。
「雨が降るから泊まっていけば?。」
「ヒイロに用があるからな。」
「なにしてるの?。」
「脱獄犯的戦後作業。」
「誰も気づいてないけどね。言っとくけど昨日今日L1歩いていてL1っ子気づかれないなら、プロパガンダも考え物ってやつよ。」
「確かにあれは最悪な人相描きだ。・・・ま、そういうこと、今更かかわんなくていい。」
「そう?。」
 それ以上引き止めずに、ヒルデはドア口で見送る。
 そっと呟く。。
「気をつけてね。」
「・・・。」
 デュオはドアに手を掛けた。
 息が掛かるほど近い。
 ヒルデが見上げた。
「・・・・。」
 あのときの言葉をまだ伝えていない。
 宇宙に。一緒に。
 だけど言えない。言うのが怖い。
 息が遠のく。10cm程の距離が離れていく。
 再会の約束もなく、デュオが踵を返していく。








 やっぱり・・・・逢いたくなかったよ、デュオ。
 何も変わっていなかったね。
 窓の外は再び雨が降っていた。
 ヒルデは庭につながる窓辺に座り、カフェオレで手を温める。

 『あいつの勇気はおまえだよ。』

 ヒイロ、
 デュオと私を見かねて会わせたんだろうな。
 ヒルデは苦笑する。
 今日の喫茶店での会合はヒイロにも伝えてあったものだ。
 冷たそうにいている割に優しいから。
「(ありがとヒイロ。)」
 でも勇気のあげ方なんてわからなくて。
 私は弱いから、デュオにとって守らなければならない人間の一人でしかない。
 死んでもかまわない、とか、気にしないでとか。
 言われて嬉しくないだろうに、でもこれ以上何を言えばいいかわからないから、そんなことしかいえない。

 好きだなんてもっと言えない。
「・・・・。」
 今日3時間楽しかった。
 デュオの声を聞いているだけで幸せだった。
 好きだと、傍にいて欲しいとずっと思っていた。
 だが同時に求められていないことも感じた。
 全身全霊で関わるなとあのデュオの笑顔が言う。

 それでもそれが本気だから好き。

 私はあの本気のデュオが好きなのだ。
 忘れもしない月面基地での言葉、・・・声。
 私は、あなたが言っていたように戦うことをやめた。
 コロニーを平和にするなら自分が戦いをやめるべきだと知った。
 私はあの本気のデュオが好き。

 そしてそこに、想いをかけられる私が不要だった。

 手加減されていることに気づいたのはいつだったか。
 手加減する理由がデュオにはあるのだろう。
 ただ躊躇や遠慮は戦争でも日常生活でも弊害でしかない。
 私は他人になることにした。
 私があなたを好き。それでいい。
 さっきの食事の洗い物でもしようと立ち上がる。
 窓の外の雨の音が一段と激しくなりその様を眺める。
「デュオ、傘持ってなかったな。」
 持つわけが無い。持たせればよかったと思った。
 窓に映る自分を見る。今朝鏡で見た自分と変わらない。
 そう・・見返りを求めない恋は、醜くなくていい。

 でも確かに逃げたのだ。
 手加減するデュオが嫌で、
 でもつまるところ手加減されることを許容できない自分が嫌で、
 好きなのに、そんな関係に耐えられなかった。

 勇気を与える資格なんて無い。
 頬に温かく涙が伝っていく。

「さよなら、デュオ。」
 綺麗事を口にする。


 逢いたい。
 傍にいたい。

 好き。

 裏腹な思いは独善的で醜かった。







[10/1/29]
■二人暮らしの前の話がいるなーと思う・・。私が書いたほうで・・・。
デュオとヒルデはゼクスとノインに次ぐカップルだと思っています。
(いやヒイリリが恋人じゃないはずないじゃんかなのですが・・・お互いに容赦ないから・・。)

内容は前とちょっとかわってるかもー・・。ヒルデの気持ちのほう。
逃避という解釈は、葵の漫画には無かった。
が、
「やっぱり、逢いたくなかったよ。」
の解釈がどうしても私にはこれで・・・。
この台詞は外せない台詞で・・個人的に好きで。


更新遅くてすいません。。全て時間がないせいです。
まあいろいろあとからもちあげますので、今回はダークなまま。

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The Other Day





「Hello。」
<リリーナ。>
「・・。こんにちは。ヒイロ。」
 この声が耳に響いて、心が躍りだしそうになるのを出来るだけ押さえて、穏やかに返す。
 月面のホテルなので時間はL1やL2は同じ時間に設定されているため時差を気にしなくていい。
 こちらは14時だからあちらも14時だ。
<ああ。>
「ご用件があるなら先に。無ければこのまま私事を話しますが。」
 電話が苦手だと言うから先に伝える。
<リリーナ。明日から5日間の予定で休暇を、L1で取れ。>
「・・・・・。」
 単刀直入のヒイロらしい用件ではある。とはいえ自分も多忙の身だ。タイムスケージュールをしかも五日分を一生懸命計算する。
<サリィにもそれだけは伝えた。>
「・・・・・。わかりました。L1で、ですね。」
 ややあって取れないことはないと思い当たる。
 ヒイロは見越しているのだろう。私の大まかな予定は一ヶ月先まで公に明らかだ。
<ああ。>
「なにかありましたか?。」
<細月グループの検挙に当たってもらう。明後日には表沙汰にするつもりだ。マスコミ沙汰よりおまえから概要を語ってもらいたい。>
「プリベンターにはこのことは?。大統領は?。」
<おまえもプリベンターみたいなものだ。それで十分だ。>
 つまりそんな連絡は不要だと言うことだ。
 聞いたところで、それ以上考えていないものを聞いてもしょうがない。
 L1で休暇と、リリーナは頭を切り替える。
「わかりました。細月グループに関しては注意していました。休暇を取ります。ではヒルデに会いに行きますね。それからボランティアにも参加します。目的も口実もない交ぜですが。」
<ああ。>
「ヒイロには会えますか?。」
<・・・。>
 任務だ。会えるかどうかは状況次第だ。
 だがヒイロはポツリと呟く。
<残4日間半。>
 つまり移動時間を除いた、ほとんどである。言い方が素直じゃないが。
 でもリリーナは素直に喜ぶ。
「・・嬉しい。」
<・・・・。>
「では私から、ヒルデに電話させてもらいますね。」
<ああ。>
「私は何の力にもなれないかもしれません。でもヒルデと話がしたい。L1に行きます。」
 リリーナの決然とした声が耳に心地いい。
 ヒイロも自然に言葉が出る。
<無理を言った。>
「いいえ。」
 リリーナは穏やかに答える。
 でも一泊置いた。思い立ったから。
「無理と思うなら・・・一つお願いしてもいいですか?。」
<・・なんだ?。>
「よかったら、あなたの写真が欲しいの。」
<・・・・・・・写真?。>
「あなたから私に。」
 誰かから手渡すのではなく。
<わかった。>
「お願いします。」
 そしてヒイロとリリーナは通信を切った。




「・・・・・・写真。」
 ぼそりと呟く。
 KIOの地学の研究室で、自分のところのロッカーを開ける。
 郵便物も押し込まれるので、だいぶたまっていた。
 ついでに片付けようと整理を始める。
 研究室の室長が声をかけてくる。
「おまえ最近来なかったな。シャトルの設計にかかりきりか?。」
「単位を取ってる。」
 ゼミのメンバーの女史が首を傾げる。
「講義に出てるの?。」
「ああ。」
「あなたならほとんどわかってることばかりじゃない。」
「そうでもない。」
 室長の雑用係兼秘書の男子学生が言う。
「おまえ、早く教える方に回ったら?。」
「・・・・。」
「単位とってたろ。何か足らんの?。」
「・・・・脅かしてしまう。」
「・・・・そうなのか?。」
「前に言われた。」
「・・・・そうかなぁ。」
 男子学生は訝しげだ。
「そっち方面も考えていることは確かだ。だが今はまだ難しい。」
「おまえなりに気にしてるわけだ。でも取り越し苦労だと思うぞ。」
 室長は苦笑した。
 ごちゃごちゃの書類の中から、写真がまとめて収められている封筒を取る。
 学部内の写真好きのカーネルという男がくれたものである。撮っては配っている。
 そこから写真を一枚選び出す。
「?。カーネルの写真がどうかしたの。ユイ。」
 女史が首を傾げる。
「・・・写真がいるだけだ。」
「白いサマードレスの彼女に?。」
「・・・・。」
 ピンで写っている写真の連想として、そういうものなのか?、とヒイロは内心で思う。写真を持つ必要性を実はあまり感じない自分だ。
 リリーナにも同じことを思うが、欲しいと言うのだから用意している。
「それなら、この写真でいいと思うわよ。写真立てにしてもカードケースにも入るから。」
「・・・。」
「サマードレスの子か。1月の。」
 ぽんと室長が手を打つ。
「ユイに年相応の彼女がいるって、皆で言ってたんだよな。」
「・・・・。」
 目立っている・・と憮然とする。
 だがその分、顔は覚えられていないようだ。
「おまえがどんな顔でそれやるのか見てみたいぞ。」
「・・・・。」
 こちらは沈黙で通しているのに、あげると言うのが決定事項になっている。
 ピンの写真というだけなのに。不可解である。
 その時だ。後ろのテレビがニュースに変わる。
 ドーリアン外務次官がL1に来て、休暇に入ると言うものだった。
「へー、ずいぶん急だな。明日?。へー。」
「・・・・。」
 リリーナの行動は早かった。普段は家族を大事にしろと言ってあるためだが、自分に会うためなら手段を選ばない。
 ヒイロは写真を胸のポケットに収める。
 そしてファイルを戻し、さっさと部屋から出て行った。



[10/1/29]
■それなりに社会的に大きい事件と言うことで。でもそこ細かく書くとどうでもいいくらい長くなる。
ニュアンスで〜。

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