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Holy Day
4.2日-night









 Bエリアもまた雨だった。デュオは濡れながら歩く。
「・・・。」
 L2に二人で暮らしていた時、
 いつもヒルデは
 俺に手をいっぱいに振ってくれた。
 嬉しそうに待っててくれた。
 俺はあの手を守りたかった。

 Say Goodbye Duo.

 今日、その彼女の手は、自分のものにするのに10cmもなく。

 福祉活動をしていると言う。
 それが俺の中でどんな意味を持つのかヒルデは知っているのだろうか。
 過去のことなど俺は話してやいないのに。
 たぶん考えたのだ。
 戦う以外の戦い方を。
 そして、俺が喜んでくれる戦い方を考えてくれたのだ。
 全て俺のために。
 俺が好きだから俺のために。
 それがわからないほど俺はガキじゃない。

 あの手を握りたいのに、
 こんなにも自分は臆病で、
 それがどれだけ彼女を傷つけているか、
 知っているのに、

 あの時失った幸せが、この幸せと同じだから、

 また壊れるのが、恐い






 ヒイロの部屋に入る。
「ギャッ」
 Ouch!とうめく。ドアを開けたとたんタオルが飛んできた。顔面に当たる。
「濡れたまま、また入ってくる気か?。」
 不機嫌そのものな顔でヒイロが投げつけたのだ。
 機嫌が悪い理由を聞きたいところだが、こちらも最大限の嫌がらせをされたあとで、最上級に機嫌が悪い。
 部屋の中に戻っていきながらヒイロがぼそりと呟く。
「何度も世話を焼かすな」
「・・・・。」
 どんな世話をかけたと言う。
 あれか?、今日の仕打ちがか?。
「情報は?」
「ねえよ」
 待ち合わせで話すつもりなんざなかったんだなと、剣呑に言い返す。
「俺に当たるな。」
「・・・。人をけしかけておいて、誰だおまえ。」
 昔は誰にでも無関心だったくせに。
 俺たちの二人の間なんかおまえにとっちゃ本当にどうでもいいことだろう。
 それがなんだ。
 待ち合わせに嵌める?。
 そんなことをおまえがすると思うかっ。
「・・・」
 そして嫌悪感は無く、むざむざはまった自分にいっそうの嫌悪がつのるだけ。
 ヒイロは変わっていっているのだ。それはわかる。
 ものすごい変わりようで、それは、うらやましいくらいに。
 俺がそのままなだけだ。
 感情的になるのを押さえようとする・・が、やはり今日は機嫌が悪い。
 大体ヒルデへのその肩入れはなんなんだ。すこぶる気に入らない。
 誰にでも無関心だったくせに。
 ヒイロは俺の激情を堂々巡りに煽りながら、部屋を指差した。
「こっちは見つけた。」
「・・・・・。」
 ヒイロは端末の部屋に入っていった。





「Hallo」
 ヒルデは家の端末の受話器を取った。
 モニターに映ったのはリリーナだった。
「・・・・・・リリーナっ。」
<こんにちは、お久しぶりヒルデ。>
「うん、久しぶり・・っ。でもTellなんか。もう雲上人かと思ってたし。」
<ヒイロから聞いたの。福祉の活動してるって。>
 そうか、ヒイロ、リリーナにつないでくれたんだと思った。
 でもまさかダイレクトに電話をかけてくれるとは思わなかった。
 今は外務次官をしている彼女。初めて映像で見たとき女王だった。
 が、リーブラで遭遇した時は、普通の子だった。
 それはとても幸運だったと思う。隔意を抱かずにすんだ。
「うん。学生内で始めたんだけどね。結構うまくいってるよ。」
 ヒルデは通信傍受を確認するレーダーを操作しながら、普通に会話していく。
「ほんと滅茶苦茶嬉しいよ。私ずっと会いたかったんだ。」
<ありがとう。私もよ。>
 後遺症もなさそうで、元気なヒルデにリリーナはほっとした。
<それでね。明日から5日間L1で休暇を取ることにしたの。>
「・・・・・。」
<・・あ、ヒルデにはわかる?>
「なんとなくだけど。」
 昼間の件はリリーナ沙汰にするような話なのか。デュオとヒイロが動くわけだ。
 ヒルデはモニターをマルチに変えて、L1で流れているニュースを検索する。
 リリーナが来ることを大仰に話している記事が多かった。
<ごめんなさい。急で。>
 この回線の安全性が確保されていないから詳しくは話せないことを言っているのだ。
「うん。それじゃあ、ひとまず聞くけど、ホテルはどこにするの?。」
<KIOホテル>
「じゃあ、こうしましょ。明日はどうせ移動日だから、明後日私と会って。それで明々後日にボランティア。明後日は11時くらいでどお?。」
 それぐらいの猶予があればあいつらもなんとかするだろう。
「いろいろ話したいことあるんだ。」
 いろいろ含ませながらヒルデは言った。
 ヒイロのこと聞きたいだろう。
<聞きたいこともあるわ。>
 真剣な顔でリリーナが頷いた。





 ヒイロは端末を弾いて、KIOの回線上に出る。
「今L1一帯に性能のいい銃が流れ始めている。それを止めるのが今回の仕事だ。」
 あらためて言うことはないが、確認だ。
「戦時中民間人に身を守るための銃を売っていた職人がそれを作っている。名はカリエルト。」
 デュオは今朝渡された資料の一つを思い出す。
「今はアンティークの店を開いているが、まだ戦争が終わって間もないためか落ち着いてない治安を理由にまた作れと脅されているらしい。」
 デュオはヒイロの触る端末に横から触れて、Cエリアの中央回線に放置してきた情報を呼び出す。
 新聞社とエリア管理局の個人情報だ。
「こんなもんだろ。警察に流すのは。」
「ああ。」
 いくつか弾いてその警察とやらに情報を流してしまう。
「最近では企業や政治家が買い付けに来る。その職人には妻子がいる。本人は別に銃が作りたいわけじゃなく、オルゴールや時計などの細工物を作って行きたいそうだ。強い野心はない」
 カリエルトの住まいを呼び出す。
「・・・・。」
 L1Cエリア。L1の商工の工場が揃う場所だ。コロニー建造には企業や国家が関わることが多いが、その従事する民間人の生活を支え豊かにするために時間の経過とともに町工場が出来てくる。。
「彼らのL1脱出を手伝うのも仕事だ。みんなのためにと思っていた銃も裏目に出て本人も困っている。早々に脱出させてやるのが妥当と思った。」
「OK」
「企業や政治家はリリーナに取り締まってもらう」
「え、リリーナ嬢、来んの?。」
 デュオは目を見張る。そこまで大ごとにしているのかと言う感想を持つ。
「・・・・。」
 ヒイロはこともなげに言った。
「名目は、L1Cエリアで行っている福祉活動の見学だ。」
「!。」
 福祉活動の件をリリーナも知っているのかと思う。
「学生の活動は政府が行っているものより成果があってかなり評価がいい。それを理由にしてL1での休暇だ。」
「・・・・でも勘ぐってくるぞ。」
「ああ。細月グループになるべく浮き足立ってもらうためにリリーナが囮になる。」
「おまえ伝えじゃねーの?。」
 捕まえましたから、こう報告してください的な。
「来いと言ってリリーナが来ると言うから来させるだけだ。実際関わらせてリリーナに話させる方がいい。」
「・・・」
 次期大統領候補への扱いが無茶苦茶である。
「滅茶苦茶あぶねーぞ。『ヒイロ・ユイ』みたいになる可能性大だって」
 福祉の活動場所は警備に配慮が要る。孤児院に行くことになろうものなら物々しく警備の陣を貼れないはずだ。
「なんとかなる」
「おい。」
 頭を抱えてデュオはうめく。
 相変わらず優しくない。
「・・・・リリーナが来るとわかれば、まだ組織が大きく出来ているわけじゃない。彼女の滞在期間中はおそらく目立って動かない。」
「・・・・。」
 目立って動かないと言っても、そんなもの表向きだ。戦闘のプロが雇われてくるだろう。セキュリティに油断があれば間違いなくついてくる。
 だがヒイロもそんなことぐらいわかっているだろう。
 デュオは事務的なことを伝える。
「・・お嬢さん来るなら、クレセント社の一般分野。経営力のある企業だし戦争の復興にも一役買ってるけどよ、そろそろ大人しくしてもらわないと他の店がつぶれちまう。企業に監査入れるならそこのところ言ってもらえないかな。」
「・・・ああ、他の企業にもう回してもいいな。」
 ロームフェラ傘下の企業ほどの解体になるかもしれない。
 その時だ。ヒイロの携帯端末が鳴った。
「・・・来たな。」
 その携帯が置かれている本棚に手を伸ばす。
「Hello。・・・ヒルデか。」
 応対が成立してヒイロが相手の名を言った。
 デュオが目を見張る。
 ヒイロはお構いもなしに続ける。
 受話器から聞こえたのは、コンタクトがあって自分達はスケジュール調整しながら動くだけだからあとはなんとかしてねといった気安いものだ。
「・・ああ、そうなるだろうと思っていた。わかった。明後日の11時だな。」
 それで通信は切れた。その通信の短さが、普段の会い方を強調しているようで気障りだった。
「・・・。」
 気安い。
「・・おい」
 そして、とどのつまり、もっと個人的な単位でリリーナとヒルデが会うというもので。
「なんだ?。」
 端末を置いてふり向けば憎悪を伴う眼光でにらまれる。。
 ヒイロはそれを受け流す。
 デュオにはわかったのだ。
「・・作戦内容は。聞いたとおりだ。俺は二人のボディーガードとして陽動となる。おまえの任務はカリエルトたちの脱出、及び、店にある武器と証拠類の回収だ。誰が買い付けに来たかを調べろ。街中で人も多い地下だ。おまえ向きだ。」
 そんなことを聞いているんじゃない。
 声音の底辺で呟く。
「なんでそこに、今、ヒルデを呼ぶんだよ。」
 次期大統領候補の壁にするということだ。つまり。
「別にリリーナもヒルデもその方が楽しいと思うからな」
 ヒイロらしくない言い分にデュオは薄ら笑う。
「へぇ。いつからそんなフェミニストになったんだ?。ヒイロ。」
 嫌な笑い方だ。
 だが今はヒイロはただ事実だけ伝えていく。
「・・・。任務とヒルデとの交流が合わさればいくらかリリーナに自由な時間が出来る。ヒルデはこういうのには優しいからな。頭も悪くない。忙しくて普通に買い物なんか出来ないリリーナのためにどんなことをしても遊べる時間を作ってくれるだろう。」
 出来るだろうヒルデなら。
 そんなことも知ってやがる。
「それはつまりリリーナの休息だ。」
 休息だろう。だがそいつの休息のための壁にしているということにはかわらない。
 だがその壁にヒルデはなるだろう。
「ヒルデの事、ずいぶんわかったように言うんだな」
「少なくともこの件だけは誰よりもわかっている」
 正直な感想だ。
 ヒルデを見ていると自分を見ているようなものだ。
 だが言動はデュオの嗤笑をいっそう不快な物にした。
「なれなれしいっつってんだよ。」
「・・・・・。」
 嫌な笑い方だ。再び思う。
 そんな誤解しかしないから。
「そんなだから、ヒルデに逃げられるんだ。」
 ヒイロから、そんな言葉と、もう思わなかった。

 がんっ。

 デュオが激情に任せて引き抜いた本をそのままヒイロに投げつけた。
 ヒイロの左側頭部を掠めて反対側の本棚に当たる。
 放った嫉妬を、だがしかし収めるように喉の奥でデュオは笑った。
 顔面に手をあてて笑う
「・・わりーな。そのとーりだよ。図星指されて投げちまったぜ。」
「笑うな。」
 顔面の手をヒイロは取る。
「おまえがそんなふうだからおまえと一緒にいることをあきらめたんだ」
「・・・・。」
「その笑い方もやめるんだな」
 手を離した。
「ヒルデにはおまえがこの道に進むとわかっていた。本当は一緒にいたかったんだろうが、そうやって何もかも中途半端になってしまうことも知っていたんだ。」
 ヒイロは腕を組んだ。言葉には怒気がこもる。
「いつも戦いの時だけは残された。置いていかれたからあきらめた。おまえのやり方は、ヒルデに向かって『役立たずだ』と言っているのと同じだ。」
「・・・。」
「戦闘に関しては役に立たない。そう思って・・だから戦いを選ぶだろうおまえから離れた。ヒルデには確かに必要のない能力でもある。」
「・・・。」
「・・・・普通の生活能力はずば抜けているがな。残念だったな」
 腕を解きヒイロは本を拾い上げる。肩に乗せた。
 デュオがもう何も言い返してこなかった。
「戦争は終わったんだ。今回の事件が終わるまでに整理を付けろ」
 ヒイロが真面目な声で・・そうとも、最初から真面目な話だったのだ。
「普通の生活ではおまえはヒルデを幸せにすることが出来るのだから。」
 本を本棚に戻した。
「工作員をやめるなら話は早い。だがそうもいかない。続けていくなら覚悟を決めろ。捨てるか、守るか。」
 そしてヒイロならするだろう、出来るだろうことを事務的に言った。
「今のまま続けるなら、もう会わせない。ヒルデが可哀相だ。」













[10/2/21]
■あてつけてみました。

さて。
ヒルデの電話のレーダーは、カー用品のオービスのレーダー程度のものを想定。

「壁」のイメージ・・雅子様
神戸の震災の式典に出るために大阪空港に皇太子ご夫妻が来た。
車の窓を開けて雅子様が手を振っていた。
・・・・・・壁だね。ありゃ。
沿道の私らの気持ち。
皇太子の。
・・・どこから見ても皇太子が影になる。

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