Holy Day 6.4日-earlydawn & morning 深夜。 物音がしてアパートのドアが開く音がした。気配はデュオのものだから勝手にしておく。 「ヒイロー。カトルと連絡ついたぜ。使えるシャトル回しといてくれるってさ。」 端末のある部屋の開かれたドアにデュオが立つ。 「そうか。」 ヒイロは椅子を回して振り返った。 「カリエルトたちの引越し先も面倒見てくれるってさ。だから彼らの行き先はL4だ。」 デュオは昨日の夕方から再びクレセント社に赴いていた。今日の脱出経路を練るためだ。そしてどこかでカトルへの連絡をつけてきたらしい。 「・・んじゃ、俺。行くわ。カリエルトんち。お嬢さんも着いたみたいだしな。敵さんも勘ぐってくるだろうし・・・それに。」 デュオは肩をすくめる。 「また苛められたらたまんねーもんな。」 そんな軽口をデュオは叩いた。 一昨日、ヒルデのことで争った。 作戦にヒルデを巻き込んだことで、話がデュオにとって触れられたくないところまで及んだのだ。 デュオは口元は笑っているが、目は笑っていなかった。 またその笑い方だ、と思う。もう一度言った台詞なので言わない。 たぶん俺では無理なのだろう。 「本当のことを言っただけだ。」 ヒイロは平然と相手にしない。 「・・・いいか。ヒルデを殺すなよ。俺が来るまででいい。」 「・・・わかった。」 短く応えた。 その返事にデュオはもう何も応えなかった。代わりにヒイロに近づいて手を突き出した。 「ほら。やるよ。」 「?。」 何かのチケットだった。 それも二枚。天文台の。 「デュオ?。」 「ジャンク屋のおっちゃんがくれたんだ。お嬢さん地球生まれだろ。コロニーのレジャー施設なんて縁無いだろうし、大気のブラインドのないコロニー天文台は地球とは別のスケールだから。」 ふて腐れた表情ではあったが好意ではあるようだった。 「じゃーな。先行くぜ。」」 踵を返してデュオはやおら止まった。 そしてもう一度振り向く。 「お嬢さんにあげるプライベートナンバーの書かれたおまえの写真。笑ってて結構かっこいいぜ。」 「・・・・。」 椅子をガチャンと引いて驚いてしまった。それなりの動揺だ。 「・・・何故わかる」 「あーやっぱあげんだ。」 「・・・。」 ピンで写っている写真とは、どうにもそういうものなのか。 思い返してみればアルバムが差し込まれていた位置がそういえば違っていた。 昨日のうちに見たのだろうか。 こんなふうに動揺しているヒイロに、デュオは少し苦笑いしながら呟いた。 「・・おまえって、意外とこれから社会に適合していこうって考えてる方だろ。」 「ああ。」 大学に行っているのもそのためだ。 「リリーナと火星に行くために。」 ヒイロの心にある決意。 相応の人間になる。 ガンダムのパイロットではダメなのだ。その肩書きは世間を納得させないであろう。・・・・リリーナは平和の扇動者でもある。 その言葉を聞いてデュオは驚いて表情が固まった。まさか聞かせてもらえるとは思わなかった。 「無理だと思うか?。」 「いんや。・・おまえの写真の写り方はそういう心配は無いって感じだぜ。」 じゃなとひらひらと手を振ってデュオは出て行った。 戸の向こうに呟く。 「・・・・おまえはどうなんだ。」 ずっとこのまま裏社会で生きていくのか。 デュオの態度からそれを察することは出来なかった。 チケットを眺める。自分にはこんな気の使い方は出来ない。 「おまえは俺よりずっと早く社会に慣れることが出来るはずなんだ。」 夕べのお茶会ではL1とL2の福祉活動について話した。 政府側の立場や認識をリリーナは簡潔に話してくれもした。 正直地球の方がL2より地域格差が酷い。 地球圏全人口の3割をコロニーが占めるといっても、コロニーは環境を自ら作り出せるため、地域格差を生じさせにくい。 また修正もさせやすい。宇宙では画一的な環境が基本的に整っているためだ。 こっそりデュオはどうしたいかなと思った。 リリーナが言うにはデュオはずっと地球にいたという。 彼は人が好きで、・・特に弱い立場の人を放っておくことはできない。 コロニーになかなか戻ってこなかったのはそのせいだろう。 それでも地球は大きくて広くて、当然彼一人ではどうにもならないだろうし、ならば自分が何をするべきかはわかっていた。 L2で出来ることをやる。 そのためにもう自分は動き出してもいる。 晩はそれくらいにして、隣のベッドを借りて寝させてもらった。 「・・・・。」 そして只今は4時。 コロニーの照明は夏の時間を意識して薄明かりになっている。 ヒルデはベットから起き上がって、自分のカバンからコンパクト端末を取り出す。 昨日の警告音と同じパスワードを入れればヒイロのメールが立ち上がった。 「(追加・・。L4か。ええとウィナー家だよね。)」 音楽にも長けていると聞く。 芸術家が行くにはとてもいいかもしれない。 「ヒルデ?。」 ローブを脱いだ、ノースリーブ姿のヒルデを見つける。 「あ。起こしちゃった?。ごめん。」 おはよう、としっとりとした声でヒルデは呟いた。 窓の薄明かりと、端末が仄かに照らす横顔。 普段なら快活な眼差しの、だがそれは朝の眠りから覚めたばかりで瞼のうちに隠れて、これは男の人が見たらどう思うのだろう。 「・・・・・。」 リリーナは自分のベッドから降り、ヒルデのベットに登る。 「ヒイロからよ。見る?。」 「ええ。」 端末には昨日と今のメールがあった。 今回の概要についてのあらましだ。 リリーナが眉をひそめた。 「難しいわ。ここに書いてあることの意味わかるの?。」 「んー。大体。でもついていかなきゃ。ヒイロと友達でいたいならこんなもんでしょ。」 文字が特殊なのだ。 アルファベット表記ではない。文法も違う。 「・・・そうなの?。」 「うん?。うーん。なんて言ったらいいのかな。ヒイロって頭いいでしょ?。つまりヒイロからすれば会う人会う人、理解に乏しい。」 「・・・・。」 「どう説明しても理解してもらえないことが多くて、しまいには無理とか言われるとものすごい静かに怒ってる。ああ辛抱してるなぁって思うわ。」 ヒルデは苦笑する。 「だからヒイロばっかりに底辺合わせさせて辛抱させてたら悪いでしょ。せめてこのくらいはやってあげたいなぁって友達だから思うわけ。」 「・・・・私はどうなるの?。」 「・・・・さあ。でも悩むだけ時間の無駄じゃない?。あなたがヒイロの気を引くのに、それこそ美人だからって理由だけでいい気もする。」 「・・・ヒルデが気を引いたりしないでね。」 「・・・リリーナって案外嫉妬深いのね。」 「だって嫌だもの。いつも傍にいないから淋しいのに。」 リリーナは素直だ。素直に淋しいという。 「我がままなのはわかってるの。でも傍にいなかったら淋しい。」 「・・・・。」 しょんぼりといった表現が間違いなく当てはまる表情だ。 ただガンダムのパイロット相手にこの顔をするのかと思った。 疑心など生じていないのだろう。リリーナの神経もやはりどこか人間の感性を逸脱している。 「二人なら問題ないでしょう?。」 リリーナは首を振る。 「傍にいるのとは全然違うの。傍にいないとわからないことがあるの。」 「・・・・。」 傍にいたらわからなくなるものもあるというのは、彼らにはあまりあてはまらないかもしれない。 ただでさえリアルに傍にいられない二人だから。 ヒルデは微笑した。 「よかったー。ヒイロの家に行ったこと無くて。これからも行かないでおくわ。リリーナと友達でいたいからそうするわ。」 友達でいたい。 ヒルデは頬肘をついた。 参ったなと思う。自分の本性をさらして臆面も無いリリーナに、心をごまかした捻くれた言葉はまったく言語として成り立たない。 正直な思いだけが通用語。ヒイロもそう思っているに違いない。 「リリーナ。・・私が好きなのはデュオ。」 「・・・・。」 「リリーナの前だと臆面も無く言いたくなるわね。でもヒイロと誤解されたくないからこの際断言しておくわ。」 「ヒルデはデュオのこと好きなのね。」 リリーナはこちら以上にもっともっとシンプルなものを尋ねてくる。 シンプルに唯一つを。 「好きよ。」 「そう。よかった。」 「・・・・。」 リリーナの明朗な返事と笑顔にヒルデは苦笑する。人が心を開くのにこんな簡単なのってあまり無い。 そしてリリーナは立ち上がって、隣のベットに行き、着替える用意をする。ローブを脱いで荷物から出しておいた私服を身に着ける。 問題はやはりデュオだろう。ヒルデは大丈夫。 ヒルデはデュオだけなのだ。断言した。 そして、 デュオはヒルデをきっと愛している。 彼女は愛すべき女性で、そうじゃなかったら伊達とか似非だ。はっきりいってありえない。 デュオにとっての問題もこのさい私は気を配れない。 好きならば、ヒルデはそうそうにデュオの元に行くべきだ。 こんな彼女がヒイロの周りにいるほうが問題だ。 目的がだんだん変わっているリリーナである。 冷蔵庫から昨日のうちにホテルに頼んで取り寄せておいたシチューを取り出して温める。 そのほかサラダと、もう少しすればホテルから焼きたてのパンが届けられるはずだ。 「・・・。」 お嬢様のくせに朝ごはんの用意をしてくれているのにも物言いたいが、それ以上にいろいろ思案しているのがありありとわかって、ヒルデはベッドから物言いをつけた。 「ちょっとー。リリーナ。ヒイロに引き続いてあなたまで何するつもり?。」 「打算です。」 「わかってるあたりすごいわよね。嫉妬通り越して執念ね。」 それでこの政争渡っているのかと思った。 BエリアからCエリア入りする。 10時半にホテルに行く予定なのでデュオより余裕がある自分だった。 ホテルを正面から入り、エレベーターで階上へ行く。ダンガリーシャツのポケットの携帯端末にあらかじめ用意しておいたプログラムを送信させホテルのメインコンピュータごと操作してしてしまう。最上階への運転を可能にして難なくペントハウスのフロアに出た。エレベーターはそのまま止めておく。 ちょうど10時半。 ヒルデとリリーナが部屋から出てくる。 夏服といってもコロニーなので長袖はいる。ヒルデはロングスカートとカーディガン。リリーナも彼女に倣って似たような格好だ。 「おはよう。ヒイロ。」 「ああ。」 ヒイロはエレベータホール前で待つ。 「ガードマンは?。」 「ホテル側に寄越すなと伝えてある。俺がいるからな。」 「あー。例の平和維持軍から?。」 「・・・ヒルデの周りではそういう感じなの?。」 「そうね。一般の人はそう思っているんじゃない?。過去に習えばね。」 ヒルデはリリーナを引いてエレベータに乗った。 ヒイロも続く。 そして端末の方を操作して、階下に降りていく。行き先は地下の駐車場だ。 「あまり聞こえがよくないわ。」 「そういう側面があるということだ。」 ヒイロは端末をポケットにしまいながら無愛想に応えた。 「全然ニュースになってこないし、ああまた隠してるなって思うわよ。あれだけのクーデターに対抗した力を持っている集団は、少し警察集団とは言いにくい。」 「それならもっと表向きにするべきなのね。」 「ここで私にそれ聞くわけ?。一般論参考にされても困るんだけど。」 俗に言う『高度な』と『政治的』な内容だ。 「するべきだ。特に予算は。」 「それではそうします。」 「・・・。」 その応答にヒルデは顔面を押さえる。 「・・・・じゃあ、そうしておいて。」 政治がこんなエレベーターみたいに動くらしい。 居住空間上の理由から10分でヒルデの家につく。同じ理由で行動するには街中は徒歩が良い。 家には上がらずそのまま三人は街に出た。 ヒイロの作戦上一時間は自由時間だ。 リリーナに取り立てて目的の店があるわけではない。同じ年のヒルデが行く店の方が興味があるというので、ちょうどヒルデに用事のある店があるというので、そこから行く。 ついたのは鍵屋兼細工屋だ。銀細工アクセサリーからキーホルダーまで扱っている。もちろん鍵も作っている。 「こんにちはマスター。」 若い青年が陳列棚から顔を出した。 「出来てる?。」 「ああ。ヒルデ。ごめんなー。やっぱりキーホルダーの数が足りなくてさ。全部揃うまで来週になる。」 「うん。かまわないわ。でも丁寧に仕上げてね。」 「わかってるよ。」 「何を頼んでいるの?。」 「子供達にあげる名札。孤児院にいる子たちのね。あからさまにチェーンはイヤだから本人達の希望にそっていくつか作ってもらってるの。ペンダントとかブレスレッドとか指輪とかね。」 「そうなの?。私も作ってもらおうかしら。」 「あ、いいんじゃない?。腕は確かよ。メダルだけだったらすぐに作れるわよね?。」 「ああ。」 7ミリコインを見せる。 そこにシルエットになるように周囲を彫り、姿を浮かばせる。 「R・Dって入れてあげて。」 「わかった。・・・後ろで怖い顔しているのはおまえの兄貴か?。」 入り口付近で仏頂面で腕を組んでもたれているヒイロを目線だけで見る。。 髪の色だけで判断すればそんなものだ。 「あー、そうそう。で、こっちが恋人ね。」 リリーナを指差し、あとはひらひらと手を振った。 10分ほどで完成したメダルに金具を溶接しチェーンを通す。 「あ・・、ヒルデ。おまえ知ってるかな。俺の学校の同級で・・。」 個人名を尋ねられている。 ヒルデは話を聞いている。 「・・・・。」 クッションのついた小さな箱に収めて、小さな紙バッグに入れてくれる。 「はい。10ね。」 「はい。」 リリーナは紙幣で会計する。紙ではなく合金を紙ほどに薄く延ばしたものだ。 会計をほぼクレジットでとはいっても紙幣はなくならない。 そうしてバックをもらった。。 にっこりとリリーナは微笑んだ。そしてリリーナだけヒイロのところに戻る。 ヒイロはヒルデを見ていて訝しげだ。 聞いた内容は同級生が自我喪失状態の話だ。度々どこか行ってしまうらしい。 ヒイロからすればヒルデだけでなんとななるだろうがヒルデばかりにさせるなと言うところかもしれない。 でもヒルデは聞くだろう。 そこでこそっとヒイロに耳打ちする。 「ヒイロ。」 「リリーナ。なんだ?。」 「ヒルデなら大丈夫だったわ。それに昨日はホテルでいろいろお話しもしたもの。楽しかったわ。」 「・・・・。」 一昨日デュオに自分で言ったことだが、まさか本当にヒルデが普通にリリーナを案内するとは思わなかった。 リリーナと行動するということは、実際は腫れ物にさわるようなものだ。 ヒルデが戻ってくる。 「お待たせ。じゃあ次は買い物しましょ。」 思っているうちにヒルデはどんどんリリーナの手を引っ張って行ってしまう。 どこになにがあるか教えていく。 紅茶屋があるとか、今流行っているのはクラッシク音楽の専門店とか。 宇宙空間の移動のため荷物を縮小軽量化しないといけないから、繊維が特殊で真空パックにしてハンドバックに入る服とか。 でも地球にならって綿素材も人気だとか。 今度入ったのは、雑貨も売っている洋服の専門店。 「・・・・。」 アロマ香の仄かな香り漂う店で、ヒイロはやっぱり戸口付近で待っている。 「あ、これ可愛い」 「どれ?。」 「これリリーナ似合うんじゃない?」 「着てみる。」 「・・・。」 ヒルデに先程のバックを手渡して行ってしまう。 「荷物持つから、貸せ」 それでボディーガードする気?とか思ってしまうが、何とかするのはヒイロなのでヒルデは手渡す。 「サンキュ。ヒイロ。使ってごめんよ。」 手渡して行ってしまう。 ヒイロは溜息をついた。 こんなところにいる自分がよくわからないが、普通にしている状態を演じてる状態なのは間違いない。 「(・・・。11時。カリエルトの店の茶店に12時・・・まだあるな。)」 「ヒイロー。見て見て」 呼ばれたので視線だけやる。 「・・・・。」 ギンガムチェックのスカートはタックと赤の強調とピンクのグラデーションだった。 「サイズ大丈夫。?」 ヒルデに尋ねられてリリーナは、うん、と応える。 「・・・・。」 何を着ても似合うので取り立てて感想は無いが・・・市井のの服まで似合うのでちょっと押し黙る。 「うん。似合うよ。ほら、ヒイロも喜んでる。」 ヒルデはヒイロの黙り具合で勝手に解説する。 ヒイロは腕を組んでドアにもたれる。 こんな感情に付き合っていることに今更苛立たない。あきれはするが、こんなものなのだろう。 「(このぐらいの余裕がデュオにもあるべきだな。」 そのぐらいに思うことにした。 「次は・・・と。」 ヒルデがいろいろリリーナに教える。ナイトウェアにルームウェア。 その中で真空パックになるものですごく人気のある奴をヒルデは選んでいく。 「えーとこれとこれ。」 女だけでこそこそと話す。 「ヒイロの家に行くんでしょ。」 「え・・いいわ。あまり滞在しないもの。」 「私の持ち物送りつけるわよ。」 「・・・。やめて。」 「・・・・。」 どうでもいいが聞こえている。 [10/4/7] ■どうでもいいほど雑談。 ああ、買い物なんざヒイロには似合わないとか思いながら・・・でも奴だけがスクールライフしてるんだーっ。 メダルは世界不思議発見の影響。 メダルじゃなくて肖像画です。 シルエットさん政策ののシルエット画法。 シルエットなのにすごく特徴的で、イギリス行ったら作りたい・・とか思った。 ちなみに葵のの漫画でも小バックをヒルデがヒイロに渡しているのでその中身の話を勝手に作った。 買い物中、私の宇宙空間挿入しまくり。 そしてそして、ただ今は、山崎さんに釘付け中v。宇宙は素敵ですねv 小説目次に戻る ← → |