Holy Day
7.4日-afternoon









「う。」
 くしゃみ出そう。
 ヒイロが何か言ってんだちくしょー。
 デュオは口元を押さえながら、くしゃみとともに苦虫をも噛み潰す。そしてモニターに戻る。
 カリエルトたちの足取り消しをしているのだ。
 ここは宇宙港。空気がある最後の退避空間だ。
 デュオは朝一番にカリエルト夫妻とその娘息子二人の子供を迎えに行って、ここまで誘導した。
 唐突に近いデュオの誘導に家族はそれでもついてきた。
 まだ出奔に気づかれていない。今は子供をクレセント社抱えの預け入れ先に向かう時間だった。
「(時間は押してるけどよ。)」
 カリエルトたちの時間まではなんとか確保できる。
 ヒイロたちのための時間まで残るかというところだった。
「・・・・。」
 デュオは、今は、焦燥を排除した。
 端末を離れ、シャトルの方の調子をざっと伺う。シャトル出口も開閉ももう自由自在になっている。
 これで彼らは脱出できる。
 デュオはカリエルトたちを振り返った。
 家族全員が立ち上がる。デュオの手招きする方に向かう。隔壁が開けられて、シャトルの全形が前方に現れる。
 デュオは無重力そのままにぶつかって来る男の子を受け止め、その頭を撫でながら、笑顔で言う。
「飛行機に平気な顔して乗り込んでいいぞ」
「うん。ありがとう。おにいちゃん。」
 デュオの手を離れて女の子の手を引いてシャトルの扉へと飛んでいく。
 無重力を慣れたものだ。
 デュオは夫妻を振り向いて、更に続けと指差す。
「荷物はあとで届けてやっからさ。それ俺の商売だしな。」
「さんきゅな、にーさん」
 明るい茶のウェーブの母親が陽気にデュオに手を振った。
 いいってとデュオも片目を瞑り笑顔で答える。そしてカリエルトの方を振り向いた。
「・・・・。」
 カリエルトは家族を見上げながら笑っていた。そして自分も跳ね、中空の妻の手を取って子供たちのいるところへ飛んだ。
 カリエルトはデュオに一度手を振り、扉が開いて中に入っていく。
 カトルの個人シャトルなので、オート機能も相当で、こちらの設定どおりの航路をたどってくれる。
 デュオは退避エリアまで移動して、シャトルはまもなくして出発した。
「(笑えんのか・・・。)」
 聞けばよかった。
 もしこの事件で愛する人たちを失ったら彼はどうするつもりだったのだろう。
 取り返しのつかないことになることだって。
 それでも一緒にいたいのか。
 不安は?
 シャトルはコロニーから飛び立つ。カトルのシャトルは早かった。L1コロニーの制空圏をあっという間に抜けていく。
 デュオは踵を返した。
 カリエルトの店で情報収集をしなければならない。
 走り出す。
 地下工場までの道の最短を行く。
 時間は11時。
「(・・押してるな。)」
 カリエルトの不在を訝っているだろう。
 その出奔に気づくまであと1時間あるかないか。
 リリーナも探されているはずだ。
 このタイミングでのリリーナの休暇。それもまた訝っているだろう。彼女に公にされたらもう企業としてやっていけない。
 どこまで攻撃的な企業かはわからないが、集めたデータから察するに工作員相応のプロを備えていることは伺える。
 相当攻撃的な企業であると言えた。
 間違いなくリリーナの元で戦闘が起こる。
 カンだが、確信だ。
「く・・っ。」
 焦燥がつのる。

 ヒルデの笑顔とシスターの笑顔が重なる。

 もし守りきれなかったら
 自分だけ、また、取り残されたら
 だってあいつは貴族とかじゃない。
 普通の・・身を守るすべを持たない奴らの仲間だ。
 役立たずなんて思ってねぇよ。
 俺はただ、・・おまえが動かなくなるのを見たくないだけだ。













 カフェでヒルデとリリーナは隣に座り合い、地球のことを話していた。感想とか、イメージとか。
 先入観で大幅に違っているところで大笑いしている。
 ヒイロはテーブルの向かいに座って、一応聞いている。
 価値観や先入観も場合よっては笑い話になるということだ。
 生真面目にそんなことを思いながら、ヒイロは時計を見る。
「(・・・・さすがだな。どうやらまだ脱出したことはばれていないな。)」
 これだけの時間がたてばカリエルト達は無事だということだ。
 あとは企業の摘発と眼前のリリーナを守るということだけだ。
 リリーナは買ったばかりのTシャツと短めのスラックスに服を改めていた。
 それから髪を束ねてもいた。
 公での髪型だ。
 服装はいつもと違うため民間人には悟られにくいが、リリーナの顔を探す奴らには気づかせやすい。
 おとりとして紛らわしくなく、申し分ない。
 そしてリリーナにその自覚がある。動きやすい格好でと言ったのはリリーナだ。
 あとでクレームが上がるだろうが、書類上の責任問題などデリートすればいい。
「・・・。」
 クレセント社もカリエルトの方を優先させるとは思わなかっただろう。
 しかもリリーナのガードは『専属は無し』と来ている。
「(デュオがノーミスで行けば。今日の俺の仕事はほとんどなくなるんだが。)」
 ちかっと光るものが目の端に移る。
「(駄目か。)」
 時間切れだ。デュオも自分達も。
 子供を含めた移動だ。時間切れは想定内だ。
 社にお抱えの暗殺集団のすばやいプロの対応ぶりも想定内だ。
「(ようやく出てきたな・・細月グループクレッセント社。リリーナを狙ってきたか。)」
 まだ戦争が終わってまもない。
 リリーナがいなくなればクレセント社の財力で官僚は抑えられる。
 政治家もだ。
「ヒイロ?。」
 ヒイロ・ユイのように。
「・・・。」
 手に収まる端末を取り出しているヒイロにヒルデが気がつく。
 その手で簡単な動作をした。
 デュオガ見ツカッタ
「・・っ。」
 手話だ。しかも軍の。

   銃ノ情報ト共ニ俺達ヲ抹殺シニ来ル。
   Go

 すごい早いぞ。
 と心の中で冷や汗を書きつつ、okと短いサインだけ送る。
 そしてすばやくメモに書いてリリーナに見せる。

  『正面のドアから出る振りをして裏口から出るわ。』
  『ヒイロが打って出た後、外へ出るから。G-1011区域まで50m。』

 そのあとすぐだった。
 ヒイロが端末のスイッチを押した。
 甲高い破裂音が向かい空きテナントからから起きる。
 ヒルデはリリーナの手を引いて走っていった。
 それを追う男を見つける。
 どさくさリリーナを見つけられたということか。
 ヒイロは続き、男を追う。あぶりだしたのはこちらだ。
 男が振り返る。手には銃が握られている。カリエルトの銃だ。
「動くな。」
「おまえこそ動くな。」
 ヒイロは無表情に容赦なくその首に手刀をたたき付けた。











 ピーと簡易な音がして、ドアの施錠が完了する。
 ヒルデはドアから離れてリリーナを振り返る。
「・・・・ここまでくれば、しばらく大丈夫よ。」
「ええ。」
 全速力で走って息を切らして、それを整えながらリリーナは頷いた。
 髪が解けたので一度解く。そして周りを見渡した。
 居住区ではない。でも搬入路でも無さそうだった。高さ2m、幅2mほどの、リリーナには見たことの無い狭い空間だった。
「ヒルデ。ここは?。」
「・・・・。」
 なんて説明したらいいかなと思う。一拍の逡巡がヒルデにはあった。
「スペースポートの一部。又はコロニー居住区の空の一部。ここは水を循環させる管理ルートよ。」
 様々な経緯があるルートだ。
「L1は最初の頃に出来たコロニーだから。こうした隙間が多いの。増築もけっこうしているしね。」
「・・・。」
 作ってきた人たちを思う。そしてそれからの歴史もあまりいいものではない。
 吹き溜まりとか、場末とか。
「ここは戦災孤児の根城があったところよ。」
 リリーナの瞳が見開かれる。
 そしてこれからもそうならないとは言えない。
 今はいないだけ。
「口説き落とすの大変だったんだから」
 ヒルデ笑顔でひらひらと手を振った。
「そりゃーもう。生活してた感じがそこかしこにあるでしょ?、トラップも未だにあるのよー。」
「・・そうだったの。」
 リリーナがヒルデの声音に声を取り戻す。
「・・・・。」
 ヒイロもデュオもその生い立ちは知らない。
 出だしはこんなところだったのかもしれない。
 これからもこの場がそうならないとは言えない。決して戻してはならないのだけど。
「・・・デュオのため?。」
 説得なんてしたのだ。危険だったはずだ。女一人。しかも彼女は民間人なのだ。
 自分とは違う。
 そこまで動く理由は彼女にとって彼しかいない。
「うん。そうかもなぁ。」
 馳せるように応える。
 そして肩を竦めた。
「でも、もうそれだけじゃないよ。」
「・・。」
 強い。ヒルデは。
「そうね。」
 そう、デュオのためだけじゃない。
 ヒルデは、今必要な強さを持っている。
「それにリリーナだってヒイロだってみんな親いないじゃない。だから頑張るよー。」
 ヒルデはひたすら明るかった。
 リリーナは憧憬する。
「・・もう一つ質問していい?。」
「ん?。」
「先程ヒイロとしていた手話はOZの?。」
「うん。すっごく早かったけど。」
 苦笑する。
「まあ、こいうことになると軍役も便利ね」
「羨ましいわ」
「リリーナ。」
「こういうとき私は本当に何も出来ない」
「・・・。」
 リリーナはそう言うが、自分だってリリーナの地位があればデュオの傍にいられる。
「・・・お互い。無い物ねだりね。」
「ええ」

 カタン。

 ヒルデは・・、すばやかった。
 から腹が立つ。
「なんだ。ヒイロか。」
 リリーナを背に隠したヒルデが胸を撫で下ろしている。
「・・・・。」
 ヒイロは仏頂面だった。が、状況を言う。
「残りはつけられた3人だけだ。追っては食い止めた。」
 ヒルデも情報を交換する。ポケットから一枚の紙を取り出す。
 地図だ。
「ここの地図はこれね。ここが一番見つかりにくいところだけど。・・・・なに怒ってんの?。」
 ヒルデはヒイロに一応尋ねる。
「・・・・・。」
 無視。
「普通の人だと規則性に気がつくのに一時間半かな。さすがにヒイロは早かったね。真っ直ぐ来るあたり。」
「おそらく20分後に見つかるな。」
「えーっ、そんなに早く?。」
 ヒルデが頓狂な声を上げた。
「向こうもプロだあたりまえだ。」
 ヒイロは上着を脱いだ。
「それでも、なんか悲しい。」
 さめざめ嘆くが、無視。
「デュオが警察に証拠を送れば警官が動くようになっている。それまで耐えればいい。」
「・・・。」
 その二人のやり取りを眺めながらリリーナは微苦笑している。
 狙われているのは彼女で笑うところではないのだが。
「・・・。」
 ただそれを問えば、答えも決まっていた。
 傷つくのが怖い。自分ではなく。
 だから問わない。そんな気遣いは俺達にはいらない。
「ヒルデ。」
 ヒイロはヒルデを振り向いた。
「これを持ってろ。」
 突き出したのは銃。
 茶目っ気たっぷりだったはずのヒルデが、ヒイロをあざ笑うように見上げた。
「いらないわ。私は二度と銃を取らない。」
 ・・それは誰に言われた。
 その意志の強さの向こうにデュオの姿があった。
 ヒイロもリリーナにもわかった。
「リリーナがいるのにか?。」
「リリーナがいるのにあと20分以内にでも終わらせないつもり?。」
 ヒルデは勝気な眼差しで尋ねる。
「下手したら跳弾当たるわよ。」
「・・・・。」
 ついとヒイロはヒルデから踵を返した。
 リリーナの真横を通り過ぎる。
「リリーナ、10分以内に戻ってくる。ヒルデと静かに遊んでいるといい。」
「・・・・ヒイロ。気をつけて。ヒルデとそのヒルデに銃を持つなと言ったデュオのためにも。」
「・・。」

  羨ましい。

 リリーナは言う。
「(うん。本当に羨ましいよ。)」
 リリーナは恐怖を抑え、ヒイロの思うまま赴かせている。















 カリエルトの店の中に入る前に催眠ガスを撒く。
 自分もマスクを持っていないので、少量だ。
 訝んでやってきた輩が倒れるのを見る。
 デュオはそっと店に入り込んだ。
 奥へ入るとカリエルトたちの居住空間があった。
 知らなかったがカリエルトは敬虔なクリスチャンのようだった。
 その彼が作ったのだろうジーザスクライストの像があった。
 ガスの撒かれたひっそりとした空間でデュオは作業を続け、この作業工場の状況とデータを警察へ送り込む。
 データは改ざんされたものを復元していくので、少し時間がかかった。
 が、それも程なくして終わった。


 やっと助けに行ける。


 神様なんていない。
 いるのは死神だけ。
 そう神父さんに言ったのは自分だった。


 ただ、天にいる父というものが神ならば、
 祈る神が自分にある。














 ドンッ

 ドッ

 くぐもった音が続く。
 小規模の手榴弾の音だ。
 ヒイロはそれでも前方の背中を蹴る。そしてナイフで踵の靭帯を切る。
 作業的にこなして、これで二人目だ。あと一人。
「(爆弾を使い始めたか。)」
 ここには一般人がいないからな。
 急がないとまずい。
 もう一人を探して駆け出した。


 先程の部屋から10m移動して、ヒルデとリリーナは水流を調節する中間制御室に入っていた。
 外の喧騒の状況を知るのにコンピューターを借りるためだ。
 ヒルデは端末を見る。
 警察が動き出していた。
「(デュオ終わったみたいね。作業。)」
 事務的に記事を呼び出していく。
 このあとリリーナがどこから逃げればヒイロと接点ないことにしてホテルまで帰れるかのルートも考える。
 リリーナは部屋を歩き、窓があるので窓の向こうを見た。
 人がいた。
 あわてて隠れる。
「リリーナ?。」
 宇宙服?。・・この窓の向こうは真空なのか。
 いや、ここはまだ居住空間だ。
「(何かしら。)」
 もう一度覗く。
 目の端に映った塊がなんだか私にさえわかった。
 大きい。
「・・・っ。」
 まさかっ。
 いけないっ。
 リリーナはヒルデの手を強引に掴んだ。
「ヒルデ早くっ。」
「何?。」
 先程のルートを戻っていく。
「爆弾っ。」
「・・っ。」
 ヒルデがリリーナの手首を握り返して角を曲がる。
 把握している防火扉があり、その向こうに逃げる。


 ドンっ。


 防火扉の向こうから煙がしみこんでくる。
 火薬のにおいがした。
「・・・。」
 間一髪だった。
「・・・。良かった。今ので外壁壊れなかったみたい。」
 リリーナは息を整えながら呟いた。
 宇宙服を着ていた。それとも防火服だったのか。だが、そのぐらいの破壊力のある爆弾には違いなかった。
 ヒルデは剣呑な眼差しだった。
「そうね。空気がある。でも彼らはそのぐらいのつもりでいたようね。」
 がんっと壁を叩く。そしてその手が怒りで震えた。
 コロニーで爆弾なんて・・・っ。
「・・・・。」
 ヒルデのコロニーに対する意思の激しさを感じた。
 デュオ。早く気づいて。
 ヒルデは強いわ。
 平和や大事なことを手放さない。
「ヒルデ・・。」
 それをあなたが教えたのよ。
 ヒルデは顔を上げた。
 この部屋は退避場所のひとつだ。コロニー建設の際に作られる際の火災などに対しての避難場所だ。
 広さは無い。コロニー居住区内にあるシェルターとは違い取り壊されるはずだった建設用のものだからだ。10m四方。向こうが通路につながっている。いくつか扉もあった。
「気をつけてねリリーナ。たぶん追い込まれただけだから」
「ええ。」

 パンッ。

 唐突な銃声から、ヒルデはリリーナを庇った。
 が、もっとヒイロは早かった。
「リリーナを守るのは俺だ。」
 ヒイロの首から鮮血が飛んだ。
 が意に介さない。
「おまえじゃない。」
 そして前方の差し金の腹を渾身の力で殴り飛ばした。
 壁にぶち当たる。そこで気を失ったのか動かない。
「ヒイロっ。」
 リリーナが倒れるヒイロを抱き止めた。
「・・・・。」
 いくらナイフだからって・・銃身を掴むなんて。
 あれ、頚動脈切ってんじゃ。
「・・・!っ。」
 リリーナを狙う。
 ヒイロに一度やられて、通路からよろめく二人目がいた。
 間に合う。撃たなきゃ。
 ヒイロが殴り飛ばした刺客の落ちた銃には自分が一番近かった。
「・・・っ」
 拒否反応すらする。だから体は銃ではなく楯になる方に動いた。
 パンッ。
 乾いた音が横から響く。ヒルデ眼前の刺客が胸を撃たれて前のめりに倒れた。
 その向こうに彼がいた。
「デュオっ。」
「・・・。」

 ヨカッタ。

 マックスウェル教会が瓦礫となったあの日の光景が脳裏をたたく。
「!。」

 掻きいだかれている。
 震えている。
 それは喪失の恐怖。

 ヒルデは抱かれるまま空を仰いだ。
 ああ、私はこの人の弱さを許容するべきなのかもしれない。
 喪失の恐怖に震えて、手加減してしまう彼を、許容するべきなのかもしれない。


 そして彼の体がいびつに強張った。
「・・ヒ・・イロ?。」
 『なんでヒルデを呼ぶんだよ。』
 『その方が楽しいだろ。』
 これがヒイロの責任の取り方か
 口元が歪む。
 『その笑い方もやめるんだな。』
「・・・。」
 また無理に笑おうとしてる
 辛くてもそれでかわせるデュオの特技
 でも、
 今はヒイロを助けなきゃ。
 ぱんっ、と軽快な音でヒルデはデュオの両頬を両掌で弾く。
 この状況に頬を張られてデュオがこちらを向く。
「ボーっとしてないの。ヒイロがリリーナを残して死ぬかよっ。」
 今、私が出来ることをする。
 ヒイロのメールにあったリリーナの退避マニュアルを実行する。
「私、救急車呼んでくるから。応急処置くらいしておきなさいよっ。いいわねっ。」
 ヒルデは勢いよく駆け出していった。
「・・・。ちっ。」
 ヒルデもヒイロのことわかったように言う。
 ヒイロは自爆野郎だぜ。
 どうしてそんなこと言える。
 二人の関係に苛立ちながら、デュオはリリーナの横に入る。
「・・・・お嬢変わるぜ」
「ええ。」
 リリーナが場所を譲ってくれる。立て膝をついて様子を伺った。
 浅い・・か?。血の量はすごい。頚動脈まで行ってるかは微妙だ。
「あーあ。見事に切ってんなぁ。よく生きてんな。おまえ。」
「・・・・。」
 状況的に声も出ないのか、でも剣呑な眼差しだけは相変わらずだった。

















 喉が熱かった。
 俺の血で彼女の袖が真っ赤に染まっていた。
 弾丸が首を掠めた。
 頚動脈まではいっていないだろうが血は止まらないでいた。
 意識が遠のいていく。
 それでも感じていたのはリリーナの腕。
「お嬢。後はヒルデに任せるんだ。」
「いえ病院までついていきます。」
「事後処理を任されているんだ。ヒイロに。それにココはマスコミが来るだろうし。そうなったら不味いだろうが。」
 デュオが言い聞かせても聞かないところを見やって、くいっとリリーナの肩を俺は押した。
「ヒイロ・・・。」
「ほら。ヒイロも言ってる。」
「・・・。」
 肩を押されるのはイヤだった。でも抵抗できない自分。
「わかりました。」
 この部屋のドアがスライドしてヒルデが駆け込んできた。
「デュオ救急車が着たわ。リリーナを連れていって。」
「わかった。お嬢行くぜ。」
 泣きそうな顔でリリーナは頷いた
「ヒイロ。」
 そっと頬にキスをくれた。
「・・・。」
 また肩を押した。リリーナは立ち上がってデュオが走り出す先についていく。
 一度だけ振り返った彼女を、いとおしいと思った。








[10/4/27]
■水を循環させる・・。ぱくりです。トルーパー外伝〜。ルナの台詞。
トルーパーもアニメはろくに見ていないのですが、
小説・・特に鎧を得るまでの経緯を書いた小説が如月のバイブルです。


絵は日向の方からうーんって感じだったので外しました〜。
やってみただけなので。
スキャナーも使いこなせてないー。

ヒイロがヒルデに銃を突っ返すシーンだけいれるか??。

あ、なんかOOであるらしい。マリナが。
マリナはただしいと思うよ。
子供がいて手が銃でふさがれてて、撃ちあいになったところで回避出来るもんじゃない。
たぶん・・そういった趣旨で銃を受け取らなかったじゃないと思うけどー。



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