×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

プロローグ

5.アンダルシア







 駆るのはバイク。
 ヒイロは弾に仕込んだ追跡機能でスナイパーを追う。
 ニコルの部下から車種の報告を受けた。
 それからデュオがテロリストの本拠ジブラルタルを制圧したとも聞いた。
 迅速に死傷者も出さずに制圧。
 自分とは大違いだ。
 当然顔など見られていないのだろう。
 口うるさい割りに、破壊活動は繊細で抜け目が無く、まるで夜の闇に溶けるようだ。
 ただ残党がまだいて、自暴自棄になってあちこちで騒ぎを起こしているとことだった。
 特に少年が多いのだそうだ。
 戦争が長い間続いていたため、少年時代に兵隊になることを余儀なくされた者が地球には多い。
 コロニーには孤児は多いが自分達のような少年兵は居ないといっていい。戦禍の歴史が浅いためだ。
 デュオはそこを慮って地球に降りてきたのだ。
 少年は得てして大人より強い軍隊になりえた。
 平和や正義や自由のために貫こうとする意志は硬く、そのため作戦の一つになることを厭わない。
 兵隊は若ければ若いほどいいという。思考が単純なためだ。
 大人ではこうは行かない。
 かつての自分達を思う。
 ただ今は、それはデュオに任せることにして、シェラネバダより南、海沿いを走っていく。
 昼ならば白い民家が続く場所だ。コスタデルソルと、真っ白な家が映える美しい街が、このアンダルシアには点在する。
 だが今は真夜中だ。
 空には月も無く、星も無い。
 バイクのライトのみで、ヒイロは海岸線を走行していた。




 マラガより手前に海側に開けた町があった。
 丘陵地帯で昔から別荘地や保養所がある場所だ。
 今はオフシーズンで、空き家が占め、逃げ込むならうってつけだった。脱出経路の海にも近い。
「・・・・・。」
 町全体が閑散としているため街灯もところどころだ。
 ヒイロはバイクから降りる。
 先には割れたコンクリートの狭い道がところどころ高配に合わせて曲がりくねりながら続く。
 海岸までは徒歩で20分と言ったところだ。
 シーズン中であれば両脇に商店が立つのだろう。
 ヒイロはバイクを止め歩き出す。
 もう少し、海に近い、傾斜のある場所に、一階と二階を階段状にしたアパートメントがあった。
 そこに報告を受けた黒の車が止まっていた。
 明かりは無い。だが人の気配は感じる。
 ヒイロは狙撃されないように、身構える。
 バイクの音で既に気づいているはずだった。
 二階のベランダに入る。
 気配がするのはこの二階。突き当たりの部屋。
 ベランダの手摺を伝い歩いて行き、目的の部屋に行く。
 月が雲間から現れる。
「・・・・・アディンか。」
 開け放たれた窓の奥から声がした。
 しわがれた・・・血が喉に回っている声だった。
 ヒイロは室内に入る。
 月光が男を照らした。
 がっしりとした男が壁にもたれて座っていた。
 ヒイロの銃弾は奴の右胸に当たっていた。が、防弾チョッキを着ていれば肺まで行っていないはずだ。
 事実血は止まっている。
 その防弾チョッキがヒイロの足元に落ちていた。
 男が血を吐いているのは、毒をあおったためだ。
 様子を見る限り応急処置をしても手遅れだろう。
「・・そんな奴は知らない。」
 ヒイロは声にした。
 その声に自分の弾を剣で捌き、その胸を撃って、さらには、負けだとほざいた奴だと知ったようだった。
 男は引きつった笑い方をした。
「・・だったら、おまえ、アディンの息子か?。」
「・・何度も言わせるな。そんな奴は知らない。」
「よく言うぜ。立ち姿で奴と思ったくらいだ。聞けば話し方もな。」
「・・・・・・。」
 男は薄笑いをし、やがて伏せた。
「俺を追い詰められるのは、奴だけだ。おまえが来たのなら、奴はもうこの世にはいないんだな。」
 ごぼりと血を吐く。喘鳴が喉の奥から漏れていた。
「ちょうどいい。・・でかくなったと、冥土の土産に・・なる」
 そしてかくりと首を垂れた。
「・・・・・・余計なお世話だ。」
 ヒイロは近づいて、銃を拾い上げた。確かめる。
 もう銃弾は入っていなかった。
 追い詰めただけかもしれない。だが今更人の死になんの感慨も沸かない自分だ。戦争が終わってからもだ。
 そして弔い方もまた、知らない。
 ヒイロは踵を返した。






 二階の上、屋上から先程の通りに戻る。
 バイクの隣に四駆のジープが停まっていた。ヒイロは足を止めた。
 おもむろにドアが開いて、先程の演説会場での姿そのままで、リリーナが降りてきた。
「・・・・・・・。」
 ヒイロの眼差しが細められる。
 その目にリリーナは少しうつむいた。
 ジープの運転席から軽い溜息と身じろぐ気配がする。
「シェラネバタで反乱が起きた。残ると言いはるから、おまえがいると言って連れてきた。」
 トロワのいつも通り静かな声が言った。
「予定通り、モロッコに連れて行ったほうが良かったか?。」
 相変わらずソフトで当たり障りの無い。だがこちらの反論を許さない完全に包囲網を敷いた行動と話し方だ。
 リリーナが首を横に振った。
「・・・・・・シェラネバタにセツとジョーを置いてきました。セツには身代わりになってもらっています。私は戻らなければなりません。」
 外務次官として収拾もつけなければならない。
 だが衝突が起きているならばボディーガードだけでは守りきれない。一時的に離れる必要がある。当座のホテルは駄目だ。逆に狙われる。
 モロッコも、その手前にジブラルタルで作戦中なので、船も飛行機も狙い撃ちされる可能性が高い。
「・・・・。」
 なるほど、ここに来る選択肢は誰も予想しない。
 辺りはシーズンオフの静けさに満ちていた。
「あの・・ヒイロ。」
 リリーナにしてはおずおずとした話し方だった。
 やはりひと睨みくれてやる。
 わかっている。リリーナは便乗しただけで、トロワに追跡された自分が抜かっただけだ。完全に八つ当たりなのは間違いない。
「・・・・。」
 完全に怒っているのがわかった。
 それはそうだ。ヒイロは今スナイパーと対峙してきたのだ。
 感傷が無いはずないのだ。
 それを間隙を縫い居れるものなら出来るだけヒイロの傍にいたい私の個人的理由で来た。
「スナイパーは?。」
 トロワが尋ねる。
「死んだ。毒をあおってもう手遅れだった。」
「そうか。」
 頷いてトロワは運転席から軽やかに降りてくる。
「なら俺が回収してくる。車で来ているからな。」
 肩をぽんと叩いて横をすり抜ける。
「・・・ああ。」
 遺体回収を任せたことに軽い自責の念を感じた。トロワは戦場慣れしてそういったことも出来るのだろう。
「この一連のテロ行為は今夜限りとしよう。」
 トロワは、ひらりと手を振った。
 彼を見送ってヒイロはリリーナに向き直り腕を組んだ。
「・・トロワは作戦におまえを巻き込む可能性が高い。」
「・・・。」
 後方に聞こえたトロワは、くすりと笑う。
 まあ、自分以外の男の車に乗るなというところだろう。
「彼は信用できます。南極で、あなたと兄が戦っている場所を教えてくれたのは彼です。」
「・・・・・・・・・・・。」
 それはリリーナは信用するだろう・・と、ヒイロは後ろの坂道を降りていったトロワに対して酷薄に笑う。
 街灯一つ、冷笑を更に鋭利にする。
 リリーナがそれでも視線を逸らさなかった。
 決して逸らさない。
 ゼクスを殺せと言った、そのあとノインが兄と告げても、彼女は撤回しなかった。
 リリーナは、本当にあの時のままだ。
 恐れずに俺を見る。
「・・・・。」
 ヒイロは黒のブルゾンを脱いだ。
 リリーナがはっと顔を上げて身じろいだ。柔らかい温もりを感じたあと、もう肩に掛けられた。
 ヒイロはブルゾンのファスナーを上げてやり、襟のボタンを掴んだ。
 顔が必然的に近くなる。リリーナが真っ赤になっていた。
「来るとは思わないときに来るのがおまえだったな。」
「・・・ごめんなさい。」
「悪びれてないだろう、それは。」
「そんなことありません。」
「自覚がないということだな。」
 ぱちんぱちんと襟のボタンを留めた。
 そして顔が近いからという理由だけで、そのまま唇を重ねてしまう。
 軽く触れただけだ。すぐ離れる。後に残ったのはリリーナの真っ赤になって怒っている顔だけだ。
 知らん顔をして、ヒイロは事務的なことを言った。
「まだ23時だ。おまえをシェラネバタに連れて行くにしてもまだ早い。4時まではここで待機する。」
 そして踵を返す。
 バイクではなく、坂を下りていく。
「ヒイロ・・・っ。どこへ?。」
 小走りについてくる。
「待機って、どこで?。」
「どこでもいい。」
 そう言って本当にそこいらの邸宅のドアのセキュリティをあっさり解除して、入っていく。
 2階がリビングになっている部屋だった。
 リリーナはついていく。ヒイロはこの部屋でいいと思ったようだ。
 ストーブの傍らにランタンがあって、ヒイロはそのランタンを拾い上げた。
 背から取り出した短銃の遊底を分解し撃鉄と弾の電管を擦り合わせて火をつける。
 そしてソファの影にそれを置いた。
 中を照らさないためだ。
 部屋の中は寒かった。
 だがランタンの明かりの燃料は灯油でだいぶ温かい。
 フローリングに敷かれたラグはソファより柔らかく、リリーナはそこに座り込んだ。
 ヒイロのブルゾンは温かくて、傍らのランタンの明かりも熱も温かかった。
 そこにヒイロがどこからか持ってきたひざ掛けを手渡してくる。
「・・・少し休んでいろ。」
 そして彼はそのまま窓辺に歩いていった。セキュリティのためだろう。だが・・・・それだけじゃないだろう。
 リリーナはその背を追いたくて・・でもやめた。もうここにいる時点でヒイロの過去に十二分に干渉しているのだ。
 私はヒイロが好きなだけで、ヒイロの過去に口を挟む立場に無い。
 そっと膝を抱えて、ランタンの炎に視線を戻した。
 ドクターJはヒイロを殺人のプロフェッショナルに育てたと言っていた。
 殺人のプロフェッショナルって何だろう。こんなふうにランタン置くものかしら?。
 リリーナは微笑した。炎のオレンジがリリーナの心のように穏やかに灯る。
 ドクターJはヒイロを優しい子だとも言った。それには同意出来たけど、矛盾だとも思った。
 殺人者と優しい子は本来イコールにはならない。
 でも今はわかる。
 ドクターJは確かにヒイロを完璧な工作員にした。
 だけどそれ以前に、備わっってしまった三つ子の魂だったのだろう、と、ヒイロを掠め見る。
 私も養父に育てられた。実父より影響を受け、近しい。
 そして似ている。
 コロニー指導者ヒイロ・ユイを撃った男は歴史にその名を留めていない。どんな者であるかも知られていない。
「・・・・・。」
 あの何も見返りを求めない無欲な背中は、その男の写しであるのかもしれない。
「彼はあなたをスナイパーにしたてあげたけれど。」
 ほんの少しだけ心に掠めたのはやはり利己的で、ああ、心置きなく大統領になれる、というものだ。
 どんなセキュリティも物ともしないで、撃ってくれるだろう。
 彼は伝説の暗殺者の息子なのだから。
 リリーナは一人ごちる。
 ランタンの灯火が優しかった。こんなふうにヒイロの前にランタンを置いたのかもしれない。
「あなたを守ったのはきっと彼なんだわ。」
 小さいあなたを・・これまでのあなたを。
 そしてこれからのあなたを。


 リリーナは両手を口元で組んだ。
 私が今ここにいるのも同じ。そうそして、これからも。
 目を閉じて、養父を強く思う。
 死が傍にある今夜に。

 あなたを愛した人がいたと、どうか知って

 リリーナが祈りの言葉を唱えた。
「・・・。」
 俺は弔い方など知らない。
 ヒイロは微動だにせず、窓に映るリリーナを見る。
 炎は彼女を荘厳に照らして、美しかった。


 マダムプレジデントが殺されても。


 ガードのジョーに言った台詞だ。
 それでもおそらく俺は機械の様になんの動揺もしないのだろうと思えた。
 そして、俺は、弔い方など知らない。
 背の銃はそこで馴染んでいた。
 ・・・・知っているのは、銃で人が殺せるということだけだ。









 リリーナが背後で何か言っている。
 バイクのヘルメットを被せているのでよく聞こえない。
 たぶん悲鳴だろう。
 時速400kmで走っているのだ。バイクのエンジンの出力も最大だ。
 コスタデルソルと、白壁の街が点在するアンダルシア。
 だが白と青の美しさだけを感じるだけ。
 ヒイロはその走らせ方でシェラネバタに戻ってきた。
 早朝の市内をも300km近いスピードで走りぬけていく。
 銃声はない。元々武器を排した国だ。
 住民は家にいる。
 人影は街に潜むテロリスト達だ。彼らは呆然とそのバイクを見送るしかない。
 その先には装甲車が道路を封鎖しているのに、物ともしない勢いで道路を駆け抜けていったのだ。
 ヒイロは腰に当てられたリリーナの手を左手で押さえ、機首を上げるようにバイクの前輪を浮かせた。
 次の瞬間には滑空している。
 装甲車を2台踏みつけて、道路に降り、バイクのタイヤはうなり声を上げて路を駆け出し始めた。
 もう目の前は地主の住居エリアだ。
 高台に立つ総長の家の門を装甲車を越えたときと同じように、軽々と飛び越えて、停まる。
 そこでバイクはすんとも音も立てなくなった。
 ヒイロはエンジンのスタータを押す。が反応なし。
 エンジンを最大出力させたので停止はそのままバイクの使用不能にさせた。
 見ればタイヤも熱に解け完全に磨耗して、パンクしていた。
 ふむとヒイロは口元に手を当てて、一人ごちる。
 リリーナがバイクを降りた。自身の長い髪で苦戦しながらヘルメットをずぼっと脱ぐ。脱いで現れたのはまた怒っている顔だった。
「もっと壊さない運転が出来ないんですかっ。」
 バイクを指差して言った。
「これでは乗り物が何台あっても足りないでしょうっ。」
「勝手に壊れるんだ。」
「・・・壊しているんですっ。これはっ。改めないならシャトルが出来ても私が運転しますからねっ。」
「・・・・。」
 酷い言われようである。
 怖かったというなら可愛げがあるものを。・・だがそんなものは実際可愛げではなく鬱陶しいだけだが。
「・・・・・善処する。」
「自分で作るからいいと思ったでしょう。ドクターJのそんなところ似ないでいいんですからね。」
「・・・。」
 前言撤回。可愛げが欲しい。
「怖かったのなら、怖かったと言えばいいだろうっ。」
 俺は何故こいつが好きなんだっ。
「ええ、怖かったわっ。」
 えらそうに言われても、もう可愛くない。




 ヒイロは我に返った。リリーナを直視するも彼女は次のアクションに移っていて、きつく髪を結い上げるようにしていた。
 ブルゾンを返し、襟を正して凛と総長の屋敷に向かって歩き出す。
 屋敷のセキュリティの連中がエントランスに集まっていた。
 ヒイロは胸のポケットからサングラスを取り出して装着した。リリーナの後方につく。
 銃弾を剣で弾いたと囁く。
 今更手を出してくる奴などいなかった。

 リリーナはこのあと総長との話し合いの結果、言論の自由と、農地解放を約束させた。
 やがて、市場開放へとつながっていく。





 リリーナの大統領信任投票が、二週間後に決まった。





[09/10/24]
■もっと絡ませられる内容だが、うーん、いろいろ考えたけど、まだ小出し。
今夜はこのくらいじゃないかなぁ、というところ。
いろいろヒイロはアディンに習っていると思います。捏造になるけど「たとえばこんな話」みたいなの書きたいなぁ。
文章にいつか挿入します。

バイクすっ飛ばしたら息できないかもという想像があるのだが、保留。
勢いのあるシーンが書きたくて。
景色見ろよ〜。

銃の着火はたぶんでよろしくお願いします。調べたけどよくわからないんです。
・・・・詳しいんだろうなー・・。・・様。
一度グアムとかで撃ってみたいのが本音。

灯油は温かいです。ガスよりね。
登山でガスによるEPIガスコンロに対し、灯油のラジウスコンロがあります。
最近ストーブと言うようになっているのかな。
ガスによるコンロの方がお湯が早く沸くんだけど、テントが温かくならないの。
灯油コンロは臭いし点火するの難しいし、重いけど、ものすごい温かい。雨の登山だったら濡れた靴下くらい乾かせる。
山の中の真の闇と風雨の中で、温かかったなぁ・・。
そんな時に登るなですが、雨女なので・・。縦走するとずっと天気というわけにも行かないですしね。


あかつき・・金星探査の話。
あー、これ聞いてニタニタして、いい名前だね〜なんて思っている私は片割れのこと言えない。

ダイビングは私の宇宙観を広げてくれます。
ダイビング用マスクをつけて、海に顔をつけた瞬間、水の底が広がっている。そして水面をかいで5m下へ潜水。
何本か潜っているけど、この瞬間が一番好き。

宇宙に飛び込んだ瞬間ってこんなかんじで、ヒイロたちも好きなんじゃないかなーとか思ったりします。

小説目次に戻る